あなたにゃ、まったく敵わない。
それでカレーヌ様の家にレプトンさんが住み込むことになった。
「気まずいでしょうから、荷物はハイドに持って来させましょうね。
おい、シンゴ、手伝ってやれ。」
「はいっ!」
「そうねえ、とりあえず二階の客間が空いていてよ。
夫婦の部屋はね、今物置になってるからね、ふふふ。」
カレーヌ様が口元だけで微笑む。
あー、元ご主人がいたとこだな。
「あ、はい。」
微妙な顔のレプトンさんだ!
「うん、隣に新居を建てたらどうですか?土地余ってるでしょ。」
アンちゃんが言う。
「あらそうね。手狭になったし。」
「お母様もいらっしゃるんだし。従業員も増える。今の住居はそのうち寮にすれば良いでしょう。
ついでに工場も大きくした方が良いですね。
新しい飴細工や氷砂糖もお作りになるんでしょ。
まあ、どっちにしろネモさんかマーズさんのチカラを借りましょうね。」
「あ、じゃあ龍太郎君に頼みますか?ネモ様というかUMAにやってもらうのですよね?
彼から彼等に繋いでもらいましょう。」
レプトンさんが顔をあげる。
「いやいや、まずやはり人が設計して、大工を雇わなければ。UMAはそのお手伝いですからね。建設関係はネモさんを通しましょう。
……サマンサ、マーズさんは今日来るか?」
「エエ、指輪を一緒にエリーフラワー宝飾店に取りに行くんです。」
「あら、ちょうど良いじゃない。一緒に行ってそこで指輪のデザインも決めてくると宜しい。いっそのこと結婚指輪を先にあつらえたらどうですか?」
「ええ、うちみたいにね。エンゲージリングは後からだったですよ。」
「あら、レイカ。そうだったの?」
カレーヌ様がキョトンとしていた。
アンちゃんは苦笑している。
「ウン。でもね、最近ウチの領内から出た良いやつを貰ったから。」
そこで母がルビーの指輪を持ってくる。
「カレーヌ様、これがレイカの指輪ですよ。」
「まあ!素敵なピジョンブラッド!」
カレーヌ様の目が煌めく。
いつのまに部屋から持って来たんだ、母よ。
「最近これと遜色ないのが採れたって聞いてるの。
まるでカレーヌ様のおめでたい話を待ってたみたいね!?」
「おばさまー!嬉しい!」
カレーヌ様は口を覆って喜んでいる。
そう。母には裏がない。思ったことをそのまま口に出している。
おべんちゃらやお愛想を言わないのだ。
そしてカレーヌ様もそれはわかっているので、感慨はひとしおなのであろう。
「すぐにサンドに持って来させましょう!」
フットワーク軽いぞ、母よ。今から兄に電話する気だな。
「あ、ではエリーフラワー宝飾店に届ける様に言った方が良いですよ。その方が話は早いや。」
アンちゃんが口を出す。
「レイカさん。やはりあのルビーのお代は私に出させて下さい。私がカレーヌ様にあげたいのです。」
レプトンさんが私を正面から見据えて言う。
あら。
レプトンさんのまわりに、
きりっ。
という描き文字が見えるようです。
(昭和のマンガの表現です。)
「えええ?大丈夫?ねえ、レイカ。」
(でも、それお高いんでしょ?
という心の声が聞こえてきます……)
そして私を上目遣いで見るカレーヌ様。
(ねええ、お勉強してよう。
という心の声も聞こえてきます……)
「わかってますよ、カレーヌ様。お友達割引きでしょ。」
微笑む私。
「うーん!レイカ!大好きっ!!」
ババン!と抱きついてくるカレーヌ様。
まったく、アンタにゃ敵わない。
その時。
ニャーニャーーー!!
猫カフェ中の猫が入り口に集まる。
扉を開けてマーズさんが現れた。
「おや、噂のお二人がお揃いだ。この度は本当におめでとうございます。」
「ありがとうございます。マーズ様。」
レプトンさんが頭を下げる。
「良かったですね、レプトンさん。貴方がカレーヌ様を好きなのはみんな知っていましたからね。」
マーズさんが微笑む。
「リード様の所のお仕事をお辞めになるとか?
良ければウチで働きませんか。
貴方のようなまっすぐなオーラをお持ちのかたなら大歓迎です。
サーカスや牧場や動物園にご興味は?
あ、それよりホテルや不動産関係の方が適任かなあ?」
ニコニコとするマーズさん。
手帳を出して、
「うん、この日とこの日が空いてます。面接は飛ばして、打ち合わせや職場見学なんかいかがですか?」
相変わらず仕事が早いお方である。
「ウフフ、嫌だわマーズさん。レプトンさんはウチに婿に入るのよ。まだどの姓を名乗るか決めてないけれども。
ウチのお仕事を手伝ってもらうのは決まってるの。
ね?」
「はい。」
また、キリッ。としているレプトンさんだ。
「そうですか。それは先走ってしまったな。」
マーズさんは頭を掻く。まったくその通りです。
「でも、それで良いのですか?私やネモ兄からとりなせば、リード様の側近に戻れるかも知れませんよ。」
ああ、マーズさんはリード様が慰留してるのを知らないのだな。
世間では処分した、で終わっている話なのだから。
「ええ、構いません。
好きな人と一緒に暮らせる。いつも顔が見られる。
話ができる。それだけで良いんです。
惚れ込んだ女性と結婚できる。
――それ以上のしあわせは、無いと思いますから。」
青空のようなからりとした笑顔でレプトンさんは笑った。
その表情に一点の曇りも迷いも無かった。
そしてみんなを赤面と感動の渦に巻き込んだのだった。
ムッシュかまやつの、バン・バン・バンからです。




