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11、番発覚

 そして当日。

 午前中の典礼と礼拝に参加する。顔も知らない人ではあるが、イーサンという男性に番が見つかりますようにと祈りを込めておく。そして昼食後、最後の足掻きをするかのようにページに目を走らせていた。

 そんな彼女の耳に聞こえてきたのは、廊下の足音である。足音は荒々しく、まるで急いでいるようだ。段々と音が大きくなり、扉の前で止まったかと思うと、扉が大きな音を立てて鳴った。

 コトハがレノに視線を送れば、彼女は苦笑いで扉を開ける許可を出している。勢いよく扉が開いたため、驚いたコトハは思わず男性へと顔を向けた。その瞬間、彼と視線が交わる。

 

 彼から注がれる視線に首を軽く傾げていると、呆然と立ち尽くしている彼の後ろから現れたのは複数の男女だ。今回は彼女の練習も兼ねて、イーサンの部下であり既に番が判明している者も来てもらったとレノから聞いていた。多分彼らがそうなのだろう。後ろの男女は息を切らしながら、目の前にいる男性に声をかけた。


「イーサン様! 足が速すぎですって!」

「そうですよ〜、わたし、イーサン様の速さには付いていけないのにぃ〜」

「でもレノ様以上の力を持つ神子様が現れたんだろう? イーサン様が神子様に期待している理由も分かるから仕方ないさ」


 どうやら目の前でコトハを見つめているのがイーサンらしい。後ろにいるのは彼の部下なのだろう。この場の雰囲気を見ている限り、イーサンは部下に慕われているようだ。

 改めて彼を見てみれば部下たちよりも身長が高く、もしかしたら彼はヘイデリクと同じくらい高さがありそうだ。髪は紫色を帯びた上品な濃青色――故郷では瑠璃色と言い、故郷で祀っていた星彩神の装飾に使われていた色だった。

 そして特にコトハが目を引かれた部分、それは瞳である。幼い頃、両親が亡くなった際に手にしていた蒼玉と呼ばれる宝石の色にそっくりだったのだ。それは彼女の両親が事故で亡くなった際一度だけ見せてもらった事がある。あの後「遺物から発生する穢れが巫女姫に移るといけないから」という理由でコトハに手渡される事はなかったが。

 

 瞳に引き込まれそうになったコトハだったが、隣から聞こえるレノの声にハッとなる。

 

「ほら、イーサン様! そんなところで呆けてないで、こっちに来な!」


 扉は片方しか開いていない上に、そこにイーサンが立ち止まっているので、部下たちが入れないのだ。一番彼の近くにいた部下の一人がイーサンの顔を覗き込んでいる間、残りの部下たちは閉まっていた扉を開いて執務室へ入ってくる。静かだった室内が一気に騒々しくなった。

 

「レノ様! お久しぶりです〜」

「お前は……いつも元気だねぇ。番と上手くいっているようで良かったよ」

「レノ様の助言のお陰ですよぉ〜」

「ってロジーネ。もしかしてレノ様に迷惑をかけてないよな?」

「あ……ズウェン先輩……」


 真っ青になるロジーネと、こめかみに筋が走っているズウェン。そして後ろではいまだにコトハを見続けているイーサンに、「イーサン様、行きましょうよ!」と声をかけている男性。

 執務室が混沌とする中、その声は響いた。


「ほら! お前たち何やってるんだいっ! 外交室は今多忙なんだろう? 早く儀式をして仕事に戻りなっ」

「イーサン様、レノ様の仰る通りですよ。行きますよ〜」


 そう言って部下の男性がイーサンを引っ張るが、びくともしない。コトハは困惑している部下の男性の顔を見てから、イーサンに座るよう告げようとして彼へと視線を戻す。すると完全にイーサンと目が合った。

 コトハは声を出そうとするが、喉から音が出てこない。まるで彼の瞳に吸い込まれていくような今までにない不思議な感覚。コトハが狼狽えて一度目を逸らそうと視線を外した瞬間――。


「俺の番だ」


 そんな声がイーサンから発せられたのであった。

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