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郷愁が胸を裂く

 壊された崇拝の証、血に塗れた絵画、横たわる同胞、黒に染まる朱色の絨毯、朱に潰えた黄金。

 一人の男が懐いた憎しみの為に奔り出した結末は、白亜の巨塔が誇る戦力の総てを以て制圧された。

 壊された御像の下で横たわる、春嵐と焔を閉じ込めたふたりの姿は、まるで寄り添う恋人のようだった。

 唯一人、静寂を保つ空間の中で、ふたりを見下ろす深緑の衣装を身に纏う者の姿があった。

「……リデル……」

 ただ一つ、深緑の衣装を身に纏う者の両手には鉄の枷が嵌められていた。

 リデルとティアは、騎兵団を制圧する最中でトールス家直系第一位アーサーによって処断されたとのことだった。

 これほどまでに練度の高い私兵を率いる事ができるのは、リデルが■■■■家の重鎮だったからだと、トールス家直系第一位は言った。

「セイシェル殿、貴方も同罪です……」

「……」

 カインは逃がした。その結果、イリアは大都市アエタイトの片隅に幽閉された。

 キース家が保有していた騎兵団はトールス家直系第一位のアーサーに制圧され、大都市アエタイトもトールス家に塗り替えられた。

「……セイシェル殿、ですが貴方がアイシア皇太子殿下から地位を奪い取れば、貴方は救われる……」

 トールス家直系第一位からそのように言われてもセイシェルは頑として首を縦に振らなかった。

「よく、お考えください」

 トールス家直系第一位から告げられ、セイシェルは地下にある牢獄へ繋がれた。


「……リデル、ティア……」

 どのような暗い道を歩んでいたとしても、誰かを愛して欲しいと願った。

「エレザ……」

 どのような激しい痛みがあろうとも、誰かを救って欲しいと願った。

「……イリア」

 どのような険しい崖であろうとも、誰かと共に幸せになって欲しいと願った。

「……カイン」

 どのような運命が待ち受けていようとも、ただ、そこにいて、笑って欲しいと願った。

 その一切を、ただ【そうであれ】と乞われた果てに【その後は無し】と切り捨てられ、栄光の為に沈むと言うのならば。

「……私は絶対に赦さない……」

 誰もいなくなった地下牢で、憎しみが木霊する。

「……必ず、この手で滅ぼしてやる……!」

 空を睨んだその先には、黒い衣を身に纏う男の幻影があった。

  

『滅びを謳うがいい。ハイブライトの血を引きながら険しい道を歩む事を選んだ者よ。あり得ざる裏方の舞台役者、その名は、直系の血を引く第二王子、セイシェル・ハイブライト。お前の怒り、お前の悼み、お前の悲哀、この私が歓迎しよう!』


 黒い闇がセイシェルの身を包み、汚れた深緑の衣が黒に染まっていく。


「……私の名は、ゼーウェル。今は亡き栄光を目指し、理想とした者……そして、過ちを繰り返す白亜の城を糺す者!」


「光あるところに闇ありき! 栄光ある場に凋落ありき! 我がハイブライトよ、永遠たれ! 我が理想郷ハイブライトよ、未来永劫呪いあれ!」

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― 新着の感想 ―
リデルの置かれた状況は、進撃の巨人のライナーのような多重人格障害を起こしそうな状況ですね。 使命感で何とか持ちこたえているのでしょうか。
気になったので、こちらからも伺わせていただきました! 取り急ぎここまで読ませていただきましたが、元となった作品の番外編ということで、キャラクター同士の会話劇を本筋とした短編集という印象を受けました。…
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