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場外の貴公子


 鈍色の色彩で描かれた荘厳な絵画に囲まれ、太陽の光を模した豪奢な灯に照らされながら目的地へと歩を進めた。

 道中を飾る紅玉を黄金で囲う絨毯が緩く軋んでも、構うことなく踏み潰す。まるで、この王国、否、この名を背負う己の末路を表しているようで堪らず眉間を寄せてしまった。思わずこみ上げる熱を覚まそうとしている最中に自身を呼ぶ声がした。

「あら、リデル様、ご機嫌麗しゅうございます。今日はセイシェル皇太子殿下の元へ参られるのですか?」

 確かに自分を呼んでいるらしい。呼ばれて振り返ると、頼みもしない質問を投げかけられていたことに一瞬遅れて気づいた。

 そこにいるのは、煌びやかな華を纏う有象無象の一人。リデル、と呼ばれた男は緩く会釈し、曖昧に微笑んだだけだった。

 最も、相対するリデルの胸中等、有象無象にはどうでも良いのだろう。話は途切れること無く続いていく。

「セイシェル皇太子殿下にお会いなさった際には是非に、とお伝えくださいませ」

「かしこまりました。時間ですので私はこれにて」

 こうもあからさまであるといっそ清々しいと嘲りながら締め括る。会釈をし、有象無象から離れてまた一人になった。

 いつもは次期後継者のアイシアを持て囃す癖にこういう時だけ第二王子であるセイシェルを持ち出す有象無象に程々嫌気が差した。吐き気がするほど嫌悪した。

 セイシェル皇太子殿下――正式名称セイシェル・ハイブライト。紅を黄金で覆い隠すような白亜の居城ハイブライトの第二王子、である。

 ハイブライト現当主の下に生まれた子はセイシェル唯一人であり、彼が後継を担うだろうと誰もが思っていた。

 しかし、セイシェルは現当主の妹君であるラサーニャ・ハイブライトの一人息子アイシアを次期当主として自ら推薦し、セイシェルは代行者として裏方に徹すると表明していたのだ。有象無象にとっても、ある種己にとってもまさに寝耳に水である。

 後継者でなくなったセイシェルの権力とは次期当主アイシアや有力者に繋ぐ為の架け橋に過ぎない些事であり、先程の有象無象も渡し船としてセイシェルに近付こうとしたに過ぎない。

 最も、紅の絨毯を歩く彼の内心は【セイシェルを渡し船として利用しようとした卑しさに対して怒りを覚えてはいなかった】のである。もっと別の、心の奥底にある怒りにあの卑しさが掠めただけだった。それが彼の苛立ちの根に巣食う全てだった。

 見慣れた素朴な扉を引くと、深緑の衣を身に纏う年若い男が、白い陶器に口をつけていた。隣にある陶器からは微かに湯気が沸き立つ。

 なるほど、この男はどこまでも無頓着なのだ。それが、この男の、セイシェルと呼ばれる男の素顔である。

「セイシェル様、戻りました。またアイシア様に取り次ぎたい者がいるようです。何とかなりませんか」

 呆れ気味に言うとこの男も流石に有象無象の思惑くらいは察するようで苦笑いをしただけだった。苦笑いで済ませる話じゃないだろうと嘆息したが、このくらいで憤慨するようでは第二王子は務まらないという事だろう。忠告したリデルは無理矢理納得させた。

「セイシェル様、よくあんな扱いに慣れますよね……」

 それでも、思わず漏らしてしまう本音があった。そしてセイシェルも苦笑しながら答えた。

「そう決めたのは私だから、仕方ないな」

 肩を竦ませるとセイシェルはまた白い陶器に口をつける。この男はつくづく理解できない。多かれ少なかれ表舞台の貴公子になりたいのではないか。

 有象無象如きの欲望を代弁するわけではないが、どうせならあれもこれも手中に収めて、安泰を図りたいとは思わないのか。

 しかし、リデルはその衝動を飲み込んだ。今はまだ何もかもを明かすときではない。それに、せっかくのお茶が台無しになるのはリデルもあまり良いと思えなかった。

「ご一緒しても?」

「ああ、淹れてくれたんだ。何回か失敗したようで肩を落としていたが、私はどれでも美味しいと思うからな」

 リデルが隣席するのを確認したセイシェルは白い陶器をふたつリデルの前に置き、白い陶器の取っ手を持って蓋を押さえた。

「ちょっと濃いのでは?」

 液体が注がれた瞬間、いつもとは違う黄昏色の液体が白い陶器の中に落ちていた。

「黄昏になると木の実や花は萎むらしい。そんな話を聞いて、何故か今はこの色合いが丁度いいと思った」

 促されて口をつけると、やはり黄昏色の苦みが口の中に広がる。飲めないわけでは無いが喉越しは悪かった。やはり、この男は理解できない。

「変わってますよ、貴方は」

 嘆息しながら飲み干した後、今度はリデルが肩を竦ませる番であった。

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― 新着の感想 ―
変わり者の王子様のお話し、今後の展開が大変楽しみです。 智に秀でた、裏方に徹する影の王子。 もうそれだけでワクワクします。 遅読なのでゆっくりになりますが、追わせていただきます。
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