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第3話 攫い子

「たぶんこの子、〝異形売り〟に攫われた子なんじゃないかなって思うんです。幽世門(かくりよもん)のそばで目隠しの幻術と簡易型の結界術が施されてたし。その結界術の基になってた札の紋様が、この間の雨音先生のお仕事の資料で見た、異形市の印と同じだったので……何より、こんな小さな赤ちゃんを一人で幽世門(かくりよもん)のそばに放置するなんて! 親元から引き離されてしまったのは、間違いないかと」


 屋敷の居間で異形の赤子を囲むのは、朝緒と弥朔と雨音。そして、三人から少し離れた場所では桃がだらしなく肘をついて寝転んでいる。


現世(うつしよ)幽世(かくりよ)の境が曖昧な幽世門で、攫った異形を一時的に隠すのは確かに異形売りの常套手段だ」


 この世界は、二つの世界にわかたれている——或いは、二つの世界が交じり合って、一つの世界と成っていると云われている。

現世(うつしよ)〟とは、実体の存在が濃い人間や動植物の世界。そしてもう一つの〝幽世(かくりよ)〟とは、人ならざる者たち——妖怪や鬼、精霊といった、存在が曖昧な〝異形〟と呼ばれる者たちが生きる世界とされる。

 また、異形売りとは現世でいう人攫い。現世には、人間たちが幽世から攫ってきた異形たちを物や奴隷のように売買する〝異形市〟というものが裏社会で確かに存在しているのだ。

 弥朔の赤子を保護した経緯を聞いた雨音は、しばしの沈黙を置いて小さく頷く。


「……弥朔の言う通り、この赤子は幽世からの攫い子の可能性が非常に高いな。まずは俺がいくつか人脈を使って親を探してみよう。……いくら異形とはいえ、赤子がたった一人放置されているのは危険極まりない。よく、この子を保護する決断をしてくれたな。よくやった、弥朔」

「! ……はい! ありがとうございます、先生!」


 いつもの真顔から少しだけ目元を緩め、嬉しそうに雨音に応える弥朔に、朝緒はどこか意外そうな顔をして鼻を鳴らした。


「にしてもドジのクラゲが、目隠しの幻術に加え、簡易型とはいえ結界術をよく破れたモンだ」

「え。何、朝緒……もしかして、ようやくあたしに惚れた?」

「何でてめぇはいつもそうなるんだよ!? 誰がてめぇみたいなガキに惚れるか!」

「歳は一つしか違わないじゃん。まったく、照れ隠ししちゃって……本当にかあわいいぜ、朝緒は」

「黙れ」

「それにしても、何で逢魔さんはあんなにもこの子を『殺すー!』とか言うんだろうか。いきなり逢魔さん、積極的にあたしに近づいてくるもんだから、思わず最初はドキドキしちゃったけど……はっ! もしかして、あたしがこの子に盗られると思って……嫉妬!?」

「何なんだてめぇは……無敵か?」


 弥朔と朝緒のいつもと変わらぬやり取りに、雨音は密かに顔を綻ばせると、その場に立ち上がって朝緒、弥朔、桃の三人を見渡した。


「それでは、俺は赤子の親探しのためしばし留守にする。お前たち三人で赤子のことを頼むぞ。既に承知していると思うが、特に逢魔には気を付けろ。いざという時は桃、しばらく逢魔の相手をしてやれ。文句は受け付けん」

「えー。マジかよ」


 桃の気だるげな声にも構わず、雨音はそう残してさっさと屋敷を後にした。

 雨音の背中を見送った朝緒と弥朔は、さっそくぐずり始めた赤子をあやすため、桃に赤子を任せておしめやミルクの買い出しへと出掛けた。


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