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文香には心中で考えていた事があった。
-⑩ 「決意」という贈り物-
後ろからチラリとだけ見た龍太郎にも勝つ確率が低いと思われた勝久が脳内で如何に戦って行くか考えて行く中、隣でゲームの開始を待っている文香が耳元で囁いた。
文香(小声)「勝久さん、ちょっと良いですか?」
決して長い文章では無いが、本人にとって重みのある言葉だと受け取った勝久。
勝久(小声)「ど・・・、どうされたんですか?急ですけど・・・。」
文香(小声)「私が・・・、私が愛美ちゃんに勝ったらお願いを聞いて頂けますか?」
顔を赤らめながら話す様子から、文香の発言がただ事では無い事を知った勝久。しかし、今までの経験上で愛美を負かせた見た事が無かったので・・・。
勝久(小声)「勿論構いませんよ、文香さんが愛美に勝てたらね。」
一目惚れした男性の言葉を聞いた文香は久々に本気を出してゲームに挑み始めた、きっとこれ程意気込んで臨んだのは中学生の頃以来だろうか。
王麗「あの様子だと、「あれ」を用意しとかないといけないかもね・・・。」
妻のさり気ない独り言がはっきりと耳に入った龍太郎。
龍太郎「母ちゃん、「あれ」って何なんだよ・・・。」
王麗「どうして父ちゃんに言わなきゃいけないんだい、女同士の秘密ってやつさ。」
刑事の様子を見た女将は冷蔵庫の中身を確認し始めた、どうやら文香から預かっていた物があった様だ。
美麗「パパ!!ママ!!大丈夫?注文通すよ!!3番カウンターに麻婆豆腐と春巻き、5番卓に鉄鍋炒飯2人前、8番カウンターにお持ち帰りの唐揚げ5パック追加だって!!」
王麗「美麗・・・、あんた一気に注文取り過ぎだよ!!悪くは無いけど・・・、ねぇ・・・。」
調理場で松戸夫婦が中華鍋を温めて容器や調味料等を用意する中、座敷では「大富豪」が進んでいた。因みに、ただ場所を借りているだけという訳にはいかないので酒やジュースを飲み放題にした状態でオーダーしていた。
神崎「そうだな・・・、一先ず8切りして4のダブルからやり直すか・・・。」
すると、神崎の言葉を聞いてチャンスと思った文香が目を輝かせていた。
文香「8切りして、これでどうだ・・・!!」
愛美「嘘でしょ・・・!!やってくれんじゃん・・・!!」
そう、文香はクラブの4~7を出して「階段革命」を起こしたのだ。それにより愛美は焦りの表情を見せ始めた・・・。
文香「どうしたの?「階段革命」で潰されるのがそんなに嫌な訳?」
隣の座敷から文香の様子を見て少し引き気味になっていた王麗は率直な意見を述べた。
王麗「文香ちゃん・・・、あんたがこの辺りで一番「大富豪」が強いって有名なのは私だって知っているけど少し大人気なくは無いかい?」
文香「良いの!!これは年齢の関係ない「女としての戦い」なんだから!!」
それから十数分の間、静寂が座敷席を包む中で文香が「大富豪」となり独り勝ちした。
勝久「あの文香さん・・・、そう言えば「お願い」って何ですか?」
文香「えっと・・・、実は・・・。」
王麗「何やってんだい、これだろ?」
2人の会話を割く様にやって来た王麗が預かっていた「あれ(本命チョコ)」を手渡すと刑事はいきなり涙を流し始めた、どうやら人生の大きな転機を迎えている様だ。
文香「勝久さん・・・、生まれて初めて作りました。受け取って頂けますか?」
勝久「良いんですか?あ・・・、ありがとうございます。」
文香は拳を強く握り、贈り物を受け取った男性に泣きながら素直な気持ちを告げた。
文香「酒井勝久さん、大好きです!!私とお付き合いして下さい!!」
その場の勢いでつい告白してしまった文香の恋愛はどうなるのだろうか。