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店内にいた全員はまるで幼少の頃の様に楽しそうにしていた。
-⑨ ゲーム①-
急遽始まった大富豪大会に何故か店にいた客全員が注目していた、まるで青空の広がる公園で将棋を楽しむおじいさん達の集まりの様だった。
勝久「ジャンケンで負けた奴がシャッフルして配る事にして良いよな?」
神崎「それが一番でしょ、ただ愛美、ズルすんなよな。」
愛美「失礼な事言わないでよ、私一回もズルした事無いんだけど!!」
愛美は左手に水が入ったグラスを構えていた、今にも水をぶっかけそうな勢いだ。
神崎「悪かったよ、よせって。一先ず水飲んで落ち着けよ。」
愛美「やだ、コーラじゃなきゃ許さない・・・。」
神崎「仕方ないな・・・、大将、コーラある?」
神崎は相変わらず実感していない様だが、大先輩である龍太郎に普通の客としての態度で接しているので勝久は焦りを隠せずにいた。
勝久「おいおい、さっきも言ったけど・・・!!」
龍太郎「勝久・・・、他のお客さんもいるからその事はよせ。えっと・・・、君は勝久と一緒に働いている神崎君だったね?勝久もそうだがここでは龍さんと呼んでくれ。母ちゃんの事も女将さんで良いから。」
勝久「そ・・・、そうですか・・・。」
勝久は王麗の方をチラ見した、歯を軋ませながらプルプルと震えている様子から何処か認めていない様子が伺えた。
王麗「神崎君・・・、これからも御贔屓にね・・・。勝久君・・・、ゲームに負けたら裏においで・・・。」
正直、勝久は生きた心地がしなかった。死ぬ気でこのゲームに向き合う必要がある様だ。そんな勝久の事もつゆ知らず、神崎や文香は純粋にゲームを楽しもうとしていた。
文香「早く始めましょうよ、ビールがぬるくなっちゃうじゃないですか。」
勝久「そうですね、ぶつくさ言っても仕方ないですよね。」
座敷に座る数名はじゃんけんでカードを配る者を決めた、結果、カードを配るのは勝久となった。
文香「勝久さん、お願いしますね。」
勝久「それどういう意味ですか?裏に向けて配るから関係ないじゃないですか。」
勝久はまるでマジシャンの様な手捌きでカードをシャッフルし、全員に配布し始めた。
神崎「おいおい、お前ズルしてねぇだろうな?」
勝久「どうやってズルしろってんだよ、こんなに大勢の前で。」
接客と調理を忘れた松戸夫妻を含めて店にいた全員が勝久の手元に注目していた。
勝久「あの・・・、そんなに見られると緊張するじゃないですか。」
王麗「良いから早く配っちゃいな。」
勝久「あ・・・、はい・・・。」
王麗からの圧を感じながら急ぎ気味でカードを配り終えた勝久、ただ自分の手札を見た瞬間に表情が曇っていた。
龍太郎「ハハハ・・・。」
勝久「何ですか、笑わないで下さいよ。というかお前、いつの間に着替えたんだよ。」
実は早着替えが得意な愛美の服装を勝久がいじる中、2人の様子から文香は勝久の手札の酷さに気付いた文香、心の中で密かに勝久を救うのは自分しかいないと強く思っていた。
そんな中、ごくごく自然な流れでゲームは始まった(自分の地元の人間だけが知っているローカルルールだったらすんません)。
愛美「じゃあ、ダイヤの3を持ってるから私からね。」
文香「じゃあ取り敢えず・・・、7出してダイヤで固定しようか。」
勝久「げっ・・・!!」
文香「勝久さん、大丈夫ですか?汗が凄いですよ?」
勝久「な・・・、何を仰っているんですか、たかがゲームじゃないですか。」
どうやら、ダイヤが1枚も無い事がバレてしまった勝久。
どうなる、勝久!!