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未だに勝久の言葉を受け入れる事が出来ないでいる神崎。
-⑧ 無知の知と少女の得意技-
どこからどう見ても町中華の女将にしか見えない王麗を見て、同僚が冗談を言っている様にしか思えない神崎は軽い気持ちで王麗に質問した。
神崎「女将さん、冗談でしょ?警察手帳とか持ってるの?勝久、冗談だよね?」
2人「・・・。」
沈黙を続ける2人を見て自分がとんでもない発言をしてしまった事に気付いた神崎は、心を落ち着かせようとグラスの中の水を飲んだ。
神崎「マジ・・・、か・・・?」
勝久「俺達の大先輩だぞ、以前こっちで貝塚義弘関係の事件を追っていた時に大変お世話になった方々だ。決して舐めてはいけないのは分かるな?」
神崎は勝久の発言を決して聞き逃さなかった。
神崎「「方々」って・・・、お前今「方々」って言ったか?」
勝久「言った、間違いなく言った。本当に何も知らないんだな、あそこで中華鍋を振っている大将の事も。」
勝久に促された神崎は調理場を見た、何処からどう見ても1人娘にタジタジとしている父親にしか見えない。
美麗「パパ!!何度言えば分かるの?!靴下はちゃんと裏返してから洗濯に出してっていつも言ってるでしょ!!」
龍太郎「す・・・、すんません・・・、美麗さん・・・。」
美麗「分かってんの?!それにこのデニムパンツだってポケットの中身を確認しないで出したでしょ!!中から外れ舟券と赤鉛筆が出て来たよ!!」
王麗「あんたまた負けたのかい?懲りない人だね・・・。」
やはり何処の世界でも女性は強い、ただ娘の怒りの理由は全く別の物に変わっていた。
美麗「昨日何回も言ったじゃん!!児島の4レースは④が捲り差すからって!!何で無視して②を頭で買った訳?!」
王麗「美麗、言う事それなのかい?それで、払い戻しはいくらだったんだい?」
美麗が携帯を確認すると3連単は「④⑤③」で6万8千円とあった。
王麗「あんた・・・、これは美麗の勝ちだよ。」
競艇の話題で盛り上がる親子を見て勝久の言葉を信じる事が未だに出来ない神崎、あの店主が自分達の大先輩だって?!
神崎「ただただ愉快な家族にしか見えないんだが、ましてや店主は競艇で負けてる親父にしか見えないんだが。」
勝久「あれはカモフラージュだ、店主の正体は警視総監だぞ。」
2人の会話が聞こえたのか、お玉を片手に警視総監が近づいて来た。
龍太郎「優秀な酒井くぅ~ん・・・、ここではその事は内緒・・・。」
龍太郎の言葉を遮る様に文香が龍太郎に注文した。
文香「龍さん!!瓶ビール追加して!!そ、それとさ、若松の8レースが注目って新聞に書いてあったよ、早く買わなきゃ間に合わないんじゃないの?!」
龍太郎「そりゃ大変だ、急いで携帯で買って来るわ。美麗、文香ちゃんにビール!!」
美麗「はーい。」
半ば仕方がなさそうな表情をしながら瓶ビールを持って来た美麗。
美麗「お待たせしました、そう言えばその子って大富豪が得意なんだって?皆でやってみない?トランプ持って来るから。」
勝久「暇つぶしになるから良いけど、神崎はどうする?」
神崎「やる・・・、愛美に負けっぱなしてのも嫌だもん。」
愛美「安心して、次も「階段革命」で潰してあげるね。」
愛美の言葉にため息が止まらない2人。
勝久「お前な、自信なくす事を言うなよな。」
神崎「何か胃が痛くなってきた様な気がするよ・・・。」
ゲーム後、2人はどうなるのか・・・。