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勝久は文香の悩みに可能な限り答えようとしていた。
-⑦ 新たな来客-
勝久は替えのティッシュを龍太郎に貰うと急いで文香の待つ座敷へと戻り、箱から1枚目から3枚目までを一気に取り出して文香に手渡した。
勝久「それにしても困りましたね、「子供から必ず人気が出る新しいメニュー」ですか。最近の子供って意外と舌が肥えてますからね。こういう時、アイツがいたらな・・・。」
文香「アイツって・・・?」
勝久「いやね、自分が元々勤務している警察署にちょこちょこ顔を出したり周りをうろちょろするガキがいるんですよ。学校サボって図書館に入り浸っているって時もあるみたいでね、困った奴なんですが未成年ですから味の好みは近いはずなんですけどね。」
勝久が瓶ビールを自分のグラスに入れて1口呑んだ瞬間に、警部の背中を強く叩いた少女がいた。
少女「酒井さん!!」
勝久「お・・・、お前!!何でここにいるんだよ!!」
少女は学校の制服を着ていたが、この辺りの物では無い様だ。どうやらこの少女の事を知っているのはこの場で勝久だけだったらしい。
文香「勝久さん、その子お知り合いですか?」
勝久「ああ・・・、こいつがさっき言ったガキですよ、部下にここにいる事は黙っておく様にと念押ししていたんですが。」
少女「ガキって酷くないですか?私にだって「愛美」っていう名前があるんですからね。」
少女は勝久に対してグイグイと押す様に強く話していた。
愛美「それよりも私のことが必要だったんじゃないの?」
勝久「待て、それより先にどうしてここにいるのかを教えろ。」
勝久の質問に答えたのは愛美本人ではなく、後からやって来た男性だった。
男性「俺が連れて来たんだよ、勝久のいる場所を教えろ、連れてけってしつこい上に大富豪で負けちゃってさ。」
勝久「神崎・・・、お前がトランプ弱いのは昔から変わらないな。」
神崎「仕方がないだろ、勝久が必勝法を全然教えてくれない所為だぞ。」
自分抜きで繰り広げられる会話に一切ついていけない文香、ただラジオ代わりにしていたが故に3人の会話を肴にビールが進んでいた。
文香「勝久さ~ん・・・、その人がさっき言ってた部下の人?」
勝久「すみません、こいつは別の奴でして。言わば同僚と言いますか、若しくは「同じ穴の狢」と言いますか。」
神崎「何だよ勝久、こっちに来てナンパしてたのか?俺にも紹介しろよ。」
勝久「お前な・・・、俺がナンパをする様な性格に見えるか?」
勝久は拳を握って神崎を脅す様に返事をした、神崎曰くさっきから呑んでいた酒が回っていたのか普段とは迫力が違う様だ。
神崎「悪かったよ、怒らせるつもりは無かったんだ。」
勝久「許す代わりにお前、ここの代金奢れ。」
神崎はため息をつきながら財布と相談した、本人にとっては踏んだり蹴ったりの1日みたいだ。
神崎「しょうがないな・・・、どうせ今日はホテルに戻るだけだから俺も呑むか。おばさん、瓶ビールある?」
王麗「あいよ・・・、ちょっと待ってな・・・。」
どうやら神崎は松戸夫婦の事を知らない様だ、それが故にただの客としての注文をしていたのだがその様子を見ていた勝久は気が気でなかった。何故なら、ビール片手にやって来た王麗の顔が笑っておらず小刻みに震えていたからだ。
王麗「お待たせしました、瓶ビールです・・・。こちらの方は同僚さんなのね、「酒井警部」。後でお話があるから裏においでね・・・。」
勝久は震えながら神崎の方を見た、神崎はまだ何にも気付いていない様だ。
神崎「え?俺・・・、何かしちゃった?」
勝久「お前な・・・、ここの女将さんは・・・、警視なんだぞ!!」
まだ事の重大さに気付いていない神崎。