⑤
何とか勝久と恋愛したい文香は必死だった。
-⑤ 重なる秘密-
勝久は自分の吞んでいた酒を片手に女性刑事2人の隣に座った、しつこい様だが未だに目の前の2人が刑事である事を知らない。
勝久「そう言えば・・・、お2人は何のお仕事をされているんですか?」
文香「唐突ですね、またどうして?」
勝久「お2人共スーツが良く似合う方々だなと思いましてね・・・。べ、別に変な意味ではないんですよ。おいおい、俺は何言っているんだ・・・。」
刑事である2人にとって今着ているパンツスーツは普段着なので何の感情も抱かなかった、しかしこうやって褒められたのは初めてだったらしい。
美恵「私達、け・・・、ぷっ・・・!!」
正直に刑事だと答えようとした先輩を文香が急ぎ手で口を塞いで止めたので、思わず美恵は顔が赤くなってしまった。
文香「公務員です、普段は給食センターで働いてまして!!」
文香は決して嘘をついていない。実は今、義弘関連の事件を追って潜入捜査の為に給食センターの職員として潜り込んでいるのだ。一応、管理栄養士の資格を持っているのでそれも活かして。
しかし問題はそこでは無い、やっと解放された美恵は後輩を連れて裏庭へと向かい、文香に迫り寄った。
美恵「ちょっと、どういうつもり?!」
文香「ごめんごめん、刑事だってバレたくなくて。」
そう、刑事だとバレると(本来はそうなのだが)上司部下の関係になってしまうので恋愛どころでは無くなってしまう。文香は何とか勝久を自分の物にしたくて必死だった。
2人が裏庭から戻ると、勝久が2人の事を心配そうに見つめていた。
勝久「あの・・・、大丈夫ですか?」
突如2人が離れたのは自分の所為だと思い違いをしていた勝久。
文香「あ・・・、いえ。お気になさらず。」
自分達の勝手な行動が故に、目の前の男性に気を遣わせてしまった2人。
勝久「そうですか、なら良いんですけど。」
翌日、警察署長である姪家慎吾から勝久が署員達に紹介された、勿論そこに美恵と文香の姿は無かった。
どうやら2人は今日も元気に給食センターでの業務(と言うより潜入捜査)に勤しんでいるらしい。
慎吾「数年前に起こった放火魔による列車火災事件等を中心に、義弘関連の事件への捜査協力の為、警視庁捜査一課の方が来られています。酒井君、自己紹介をお願いします。」
火災で焼けてしまった警察署の署員達、そして署の建て替えが済むまで合同で使用している隣町の警察署の署員達の前で係長クラスの警部は堂々と自己紹介した。
勝久「只今ご紹介に預かりました酒井です、以前こちらでお世話になっていた時にも義弘関連の事件を追っていました。私は何事にも容赦をするつもりはありませんので、皆さんもそのつもりで宜しくお願いします。」
丁寧に敬語で自己紹介をする勝久だが、本人の目つきが故にそこにいた全員が迫力と緊張を感じていた。しかし、次の瞬間その緊張は一気にほぐれる。
勝久「私なりに今回の殺人鬼と放火魔達を含めた犯人グループについてまとめてみました、まずはこちらをご覧下さい。」
勝久がホワイトボードをひっくり返すと、相も変わらず女の子が書くラブレターの様な丸文字が並んでいたので思わず吹き出しそうになった署員達。
勝久「あ・・・、やっちまった・・・。」
龍太郎から自分の事を黙っておく様にと強く念を押されていた為に、それを必死に守ろうとした勝久はホワイトボードの文字まで気が回らなかった様だ。
癖は誰でも直らない。