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周囲からすれば結構な時間働かされているように見える勝久。
-④ きっかけは紹興酒-
勝久が松龍で注文を取る仕事をし始めてから約3:30位経過しただろうか、いつの間にかホールを上手く回すスキルを発揮している様子が伺えた。正直に言ってしまうと王麗や美麗無しでもやっていける可能性が浮上する位だ。
王麗「父ちゃん、今日はもう呑んじゃって良いかい?酒井君に任してりゃ大丈夫だよ。」
龍太郎「何言ってんだ、母ちゃん。元々酒井は食事に来てたんだぞ。」
店主はそう言うと冷蔵庫の瓶ビールを取ろうとした女将の手を止め、県外から来た警部を呼び出した。
龍太郎「酒井、そろそろ大丈夫だぞ。さっきのカウンター席空けてあるから改めて紹興酒でも呑めや。」
勝久「龍さんに言われましてもゴールドカードを持っている以外、俺は無一文なのでそういう訳には行きませんよ。」
龍太郎「じゃああと半時間で母ちゃんとバトンタッチしてくれ、お前は十分に働いてくれたよ。」
それから半時間が経過したおおよそ21:00頃、勝久は龍太郎に伝票を渡してカウンター席に戻った。どうやら今夜はハンディターミナルを使用するいつもと違い、勝久が手書きで注文を取った分を計算しなおさなければいけないので徹夜になりそうだ。
勝久「座るのは良いんですけど俺は自分が食事した分しか働いていませんよ。」
勝久の言葉を聞いた龍太郎はゆっくりと深呼吸しながら中華鍋を洗浄した、表面に色々と焦げ付いていたので苦戦している様だ。
龍太郎「お前・・・、に・・・、は・・・、余分・・・、に・・・、働いて・・・、貰・・・った・・・、から・・・、その・・・、分・・・返し・・・、て・・・、やる・・・。」
洗浄に苦戦しているが故の途切れ途切れの先輩の言葉を上手く聞き取れなかった後輩。
勝久「えっ・・・、な・・・、何ですか?」
龍太郎「だから、お前には余分に働いて貰ったからその分返してやるって言ってんだろ。」
勝久「じゃあ、ホテルまでの帰りのタクシー代でお願いします。」
龍太郎「今夜はここに泊っていけ、お前が止まっているホテルのオーナーと俺は知り合いだから一言言っておいてやるからよ。」
そう言うと携帯を片手に話し出す店主。
龍太郎「え?いいだろうがよ、この前呑み代とタクシー代金払ったじゃねぇか。な?俺とお前の仲だろう、頼むよ・・・。」
携帯をポケットに入れながら一息つく店主。
龍太郎「何とか大丈夫そうな方向に持って行ったからよ、今夜は此処に泊って行けや。」
勝久「じゃあ、遠慮なく・・・。」
警視総監に促されるまま紹興酒を受け取る係長。
勝久「あの・・・、先程の女性の方は・・・?」
どうやら文香の事が頭から離れないらしい、やはり自分の事を気にかけてくれた女性事が気になるのは漢の性というものだ。
龍太郎「ああ・・・、そこにいるじゃねぇか。」
勝久が店主に促されるままに目線を動かすと、目的の女性がカウンター席の端でまだ呑んでいたので、勝久はすぐ近くに移って自分が呑んでいた紹興酒を追加オーダーして女性に渡した。
勝久「先程はお気遣いありがとうございました、これはお礼なので呑んで下さい。」
文香「私、大した事してないのに頂いても良いんですか?」
勝久は文香の気持ちが上司ではなく、1人の男として嬉しかった様だ。
2人の雰囲気を察した美恵はさり気なくその場を離れて2人きりにしてみた。
勝久「あの・・・、俺は警視庁捜査一課から来た酒井勝久と申します。宜しければ貴女のお名前を頂戴しても宜しいでしょうか。」
文香「あの・・・、私・・・、文香と申しますので宜しければそう呼んで下さい。」
やはり勝久の前では女の部分が出ている文香。