1-3 黒の髪の勇者・・・? どゆこと??
「白くないじゃん。」
”白の草原まで急いで馬車できてほしい”
双子の弟からの伝言を聞き、その伝言を預かった騎士と一緒に白の草原に向かったアレンは、思わずそう呟いた。
聞いている人がいたら、「さすが双子」と言いそうな感想だが、この草原に訪れた人はほとんど全員そう思っても仕方のない光景かもしれない。
アレンの背後にいた騎士ウィレムも、その言葉を聞いて無言でうなずいた。
騎士ウィレムは、20歳を少し越えたばかりの若さでありながら、第三騎士団の副団長だ。寡黙で実直な性格のため、王国将軍であるアレンたちの父バルドランド・シュバイツェルからも目をかけられている。当然息子であるアレンたちも見知った間柄である。
騎士団駐屯地へ向け、森の中の道をのんびり騎乗し常歩していたところを、小道から出てきたカイルが見つけ、アレンに言伝を頼んだのだった。
そんなウィレムだったから、騎士見習いとはいえ8歳の子どもが森へ行くのを見送ることはせず、護衛のように付き従ってくれた。もちろん、アレンたちがシュバイツェル家の嫡子であることも追随の理由の一つではあるだろう。
白の草原への小道は、乗ってきた馬車でも通れるか通れないかのぎりぎりの幅だったので、アレンたちは馬車を待たせ、二人で徒歩で草原へ向かった。
そして草原を見て、思わず冒頭の言葉が出たのだ。
色とりどりの花弁が風に舞い踊る現実味のない風景のど真ん中に、これまた現実味のないほどに愛らしい姿かたちをした双子の弟が座っている。
「あ、アレン~。こっちこっち」
と大きく手を振るカイルの姿は、美しい草原に舞い降りた天使のようですらある。これで自分と双子たとは到底思えない。なんでそんなにキラキラしているんだろう。
光り輝いているように見えるのは目の錯覚ではないように思えて、アレンは何度もごしごしと目をこすった。
はたから見れば、アレンも十分かわいらしい容姿をしているのだが、本人は全くそのことに気づいていない。
「・・・・・?????」
いや、錯覚ではない。
何か、いる。いや、何か、ある。
何だあれは??!とアレンは両手でごしごしと目をこする。
やっぱり、何か、・・・・・ある。
白いゆりかごみたいな小さなベッド。そこに白と青のふわふわの塊のような何か。
そしてまわりにちかちかと舞ういろいろな色の光。
さらにベッドの横に座り込む弟。
(なんだ・・・?赤ちゃん???)
近づくにつれ、だんだんと輪郭がはっきりしてきた。
これまたなんとも愛らしい、天使に赤ちゃんがいたらきっとこういう姿なんだろう、と思えるほどの赤ん坊が、ご機嫌な顔でこっちを見ている。
両手で手を振ってくるので、アレンも思わず振り返してしまって、はっと気づく。
なんとなく気恥ずかしい気持ちを隠すようにその赤ん坊を指さすと、
「・・・・これ、・・・・なに??」
とカイルに尋ねる。
「えっ!アレン、見えてるの?!」
アレンの言葉に、カイルは驚いたように目を丸くして身を乗り出してくる。
何か、まずいことを言ってしまったのかもしれない。
急に不安になるアレンにかまわず、カイルはさらに続けた。
「よかったー。ぼく、声は聞こえるんだけど見えなくって。」
何が何だかよくわからなくってさあ、とアハハと笑うカイルの言葉に、アレンは、やっぱりまずいことを言ってしまった、と思うのだった。
赤ん坊は、アレンと目が合ったのがうれしいのか、にこにこ笑顔でこっちに手を振り続けている。
本当に可愛い赤ん坊だなあ、とその姿を見ていたら、ふとその背後にまたまずいものを見てしまい、アレンは思わず目を背けた。
赤ん坊の背後に、光を放ちながらぷかぷか浮かぶという、ありえない光景ここに極まれり、を体現している短剣が、あった・・・・。