0-4 私、優雅に日々を過ごす
・・・ラエンとのお茶会で、おなか一杯ミルクを飲んだ私。
おなかがふくれれば眠くなるのは当たり前で・・・。
ラエンの抱っこでベットへ移動すると、あくびを一つ。
それに合わせるかのように、私の目の前をきらきらと、いろいろな色のちょうちょが回って飛ぶ。
ああ、これはあれだ。
赤ちゃんの頭上で音楽とともに回る、・・・メリーゴーランドじゃなくて・・・なんだっけ?
赤ちゃんなんて育てたこともないし、自分が赤ちゃんの時のことを覚えているわけもない。だから道具の名前なんてわからないわぁ・・なんて思っているうちに、私は多分、眠ってしまった。
赤ちゃんにこの情報量は酷よね、なんて思いながら。
それから数日もたつと、なんとなくこの世界のこともわかるようになってきた。
まず、妖精の世界かと思ったけど、そうではないらしく、ここではちゃんと時間の流れが存在していた。朝も夜もあれば、雨の日だってもちろんある。
ラエンの話だと、妖精たちの住む世界ももちろんあるし、そこではラエンより前の聖剣の主もいるらしい。私ももともとはそちらの住人?らしいんだけど、今は人間のいる世界に存在しているんだそうだ。
「そうじゃないと、勇者に会えないじゃないの。」
と言っていたので、パラレルワールド的な?お化け的な??ものなんだろう。存在はしているけど見たり喋ったり触ったりとかができないし、本来は違う世界の者同士が会うこともできないらしい。でも稀に世界がつながるとかいろんな条件下で、見えたりすることもあるし、力さえあれば普通に行き来することも可能なんだそうだ。
当然私は赤ちゃんなので、先々代の聖剣の主に会うことも話すこともできない。
何の力もないからだとか。
ラエンの言っていた通り、私はお腹がすくこともなかったし、・・・・あれよ、あれ。トイレ問題。赤ちゃんだからおむつとか替えられるのかしら、中身大人なのになにその羞恥プレイ、とか思っていたけど、私、用を足す機能?がありませんでした。
あれかね、この辺はやっぱり物語の中だから?
アイドルはトイレなんかにいきません!とか昔聞いたような気がするけど、そういうこととか??
それとも私の想像力の限界とか???
よくわからないけど、トイレにいかなくていいということは、おなか痛くなったりすることもないってことでしょ?なんて便利な体なんだろう、と感動したわ。
って感動のあまり、トイレ問題について語りすぎたわね。
おなかは空かないけど、ごはんを食べるのは楽しいから、ちゃんと三食は食べている。
とっても私はまだミルクなんだけどね。
このミルク、よくわからないけどおいしいの。
何を飲んでいるのかはわからないのがこわいといえばこわいけど。
牛乳では、ない。
元の世界で赤ちゃんが飲む粉ミルクでもない、と思う。飲んだことないから知らないけど、白くないし。
透明の液体の中に、金粉とかラメみたいな、きらきら光る何かが入ってる。でもそのラメは固形ではなくて、飲んでいても形を感じないの。溶けてなくなっちゃった、とかいう感じとも違うような・・・。
でも、ローラたちが変なものもってくるはずもないし、おいしいのでごくごく飲んでます。
その辺私、強いと思う。
あ、ローラというのは、桃色ナイスバディ妖精さんのこと。
名前を聞いたら、まだないという。
そんな吾輩みたいなセリフ、と思ったけれど、名前がないのは不便なので、名前をつけさせてもらった。
私がつけた、と言っても、意思疎通はできないので、ラエンに伝えてもらった。
妖精さんたちも、ローラは一人だけど、桃色は全員ローラなんだって。
なにそれ、哲学?!とかなったけど、要は個、という考えがないらしい。
私が最初に認識したから、ローラの形をとったけど、そうじゃなかったら、ローラは他の桃色妖精たちと同じ姿かたちのままだったとか、なんとかかんとか・・・。
わかったような、さっぱりわからないような・・・・。
ということは、私に会って生まれたの?とも聞いてみたけど、ローラはもともとずっとそこでローラだったとか・・・・いやもう、深く考えるのはよそう、と思った。
ということで。
桃色はローラ。水色がマーサ、緑色はキーラにした。
意味は別にない。
ナイスバディが、ローラって感じだったし、侍女さんというと、マーサという名前が思い浮かんだし、ローラ、マーサ、と間を伸ばす名前だったからという本人にはとても言えない理由でキーラになった。
多分元の世界で読んだ本か遊んだゲームに、ナイスバディなローラや、侍女なマーサがいたんだと思う。
そんなこんなで、いろいろとラエンに聞いて、学ぶことも多いんだけど・・・。
『ひま』
暇、暇、暇・・・・・。
暇すぎる、のどかすぎる、平和すぎる・・・・。
平和なのはいいことよ。でもほら、私、聖剣でしょ?
戦いは?怒号飛び交い、魔法が放たれる戦闘シーンは??
そもそも、果物ナイフなんだから、これ、何とかしなきゃいかんでしょうよ???
私の勇者が伝説級の、超絶ものすごい勇者だったら、この果物ナイフでも魔王は倒せる・・・・いや、倒せない気がする。果物ナイフで死ぬ魔王は嫌だ。
というか、果物ナイフで死ぬ魔王を倒す旅、嫌だ。
そんな小説面白いはずがない。
ついでにいうと、赤ちゃんに倒される魔王も、赤ちゃんを抱っこしながら旅する勇者も見たくない。
シュールすぎるでしょうよ・・・・。
私が赤ちゃんのままでいる限り、私が期待する勇者の冒険は始まらない気がするんだよね。
始まらない、というか、始まってほしくないんだけど。
勇者の旅が始まるためには、まず果物ナイフをどうにかせねば。
そして私が成長せねば。
というかそもそも、勇者、どこ??!!!
ラエンが、私が生まれたということは、勇者が存在する、みたいなことは言っていたけど、待てど暮らせど勇者はこない。
勇者どころか、この花畑、私とラエン、色とりどり妖精ズしかいないんですけど??
旅人が訪れることもなければ、動物が来ることもない。
旅の行商人も来ないんだもん、勇者なんて来そうにない。
これはあれか?
数年後に成長した私が、勇者を探して三千里的な話になるのか??
「おこちゃま聖剣、旅にでる」的な???
でも私はなんとなくわかっている。
食べ物が必要ないこの体が成長するのは、時間とか栄養ではないということを。
となると、やっぱり勇者が来るのを待つしかないわけで・・・。
『勇者~、勇者~、はーやくこいこい、勇者く~ん』
これがゲームの始まりとかだったら、『勇者・・・聞こえますか、勇者・・・』とかってなるんだろうけど、そんなかっこつけたところで、私の声、聞こえる人いないし、来ないし・・・・。
仕方がないので、変なリズムをつけたこの「勇者来い来いの歌」を、今日も私は口ずさむのだった。