0-3 私、自覚・・・できず
ふわふわ浮いている銀色の果物ナイフ、いや、聖剣。
ふわふわ浮いている妖精さんズ(かわいい)。
そしてふわふわなおっぱ・・・危ない口が滑るところだったわ。
何もかもがふわふわしていて、現実味を帯びていない中、私は聖剣ナイフを凝視する。
『・・・・シンプル。』
「ふふっ。」
心の中でボソッと言うと、どういう仕組みか聞き取ったラエンが笑った。
笑い声まで美しいって、どういうことよ。
ラエンを見上げると、彼女はにこりと微笑む。
「それはね、まだ勇者が決まっていないからよ。」
さっきも似たようなことを言っていたなあ。
ラエンは続けて説明してくれた。
「勇者の特性にあわせて、私たちは姿を変えるのよ。」
だって考えても見てごらんなさい、とラエンは楽しそうだ。
「魔法タイプの勇者に、ごっつごつの剛剣じゃ、使いこなせないじゃない。」
確かにそりゃそうだ。
美女の口から「ごっつごつ」とかは聞きたくなかったなあ。というのはおいといて。
『勇者、どこにいるのよ・・・』
どんな世界かもわからないのに言うのもなんだけど、勇者がいなくては始まらないじゃないの。
「それなのよねえ・・・。私の場合、目覚めたらこの姿だったし、あの聖剣も、ちゃんと彼に合った姿になっていたのよねえ・・・。」
ラエンはちらりと聖剣を見て、ふう、と息をついた。
「さすがにアレが、勇者にあった形、というわけはないと思うけど・・・。なんせあなたもこの姿じゃあ、戦うことできないし・・・。」
かわいいからいいけどね、と言ってラエンはほおずりしてくる。
私のほっぺもふわふわつるつる、ラエンのほっぺも滑らかで良い匂いがして、それだけで幸せ気分になるけれど。
『・・・アレ(聖剣ナイフ)とコレ(喋れない赤ん坊)じゃあ、勇者リンゴ剥いて子守するしかできないんじゃ・・・。』
とてもじゃないが、魔王は無理だ。
魔王どころか、最初に出てくるスラ〇ムすら倒せるかどうか・・・・。
ラエンは片腕で私を抱きなおすと、もう片方の手をすっと挙げた。
それが指示だったのか、妖精たちがキラキラと光りだす。
妖精の色にあわせてキラキラピカピカ光りを点滅させるのを、きれいだなあ、と思ってみていたら、私が寝ていたらしいベッドの周りになにやら優雅なアフタヌーンティーセットみたいな一角がどどんと登場した。
「とはいえ、あなたがここに現れたということは、勇者もここにやってくるということよ。あなたもそんな姿じゃ動けないだろうし、とりあえずお茶でも飲んで、気長に待ちましょ。」
ラエンがまた手を動かすと、ぶわっという音がしそうな勢いで花弁が舞い上がる。
「私たちに食べ物は必要ないけれど、見るのも食べるのも楽しいものよ☆・・・って、さすがに赤ん坊では食べられないかしら・・・?」
すると妖精さんの一人が、ラエンの方にふわふわと飛んでいった。
「あら。」
ラエンの目の前に、哺乳瓶があらわれる。
「そうね、これなら飲めそうね。」
・・・ということで、どうやら私は、もう一度赤ちゃんから始めることになるみたいです。
勇者が来れば、変わるのかしら・・・・???




