0-2 私、美女に会う
ふわふわ妖精たちの光をまといながら、姿を現したのは、なんというか、もう、とんでもなかった。
何がとんでもないって、どう表現しても陳腐になりそうなくらいの美女がそこにいたのだ。
真っ赤な髪は緩やかに、ゴージャスにウェーブを描いており、真っ赤、といっても、風にゆらめいて淡い赤色になったり、より濃い色に見えたり、なんかもう、ゆらめく炎みたいな感じで、金色の瞳は黄金の炎のようにきらめき、真っ赤な紅を差した唇は情熱的に、魅惑的に艶めいている。
ギリシャ神話に出てきそうな衣装は、これまたあちこちに赤というか紅というか、大きさも形も違う、でも赤色を主にした宝石に彩られている。けしからん感じに完璧な肢体の、驚くくらいに細い腰に巻かれたベルトなのか、金色の糸で織られたような腰帯と、金の鎖と宝石で編み込まれた腰紐の見事な細工にまったく負けていないどころか、彼女を引き立たせるだけの物扱いさせるほどにゴージャスな女性がそこにいた。
いやもうなんか、語彙力残念。
思わずポカンと口を開けて見つめてしまっても誰にも文句は言われないくらいのものすごい美女だ。
あれ、でもここで登場ってことは、この方私のお母さ…
「違うわよ。」
突然返事をされて、さらにびっくりしてしまう。
え、今、思っただけなのに会話ができた…?
じっと美女を見つめると、美女は、金の瞳におもしろそうな光をたたえ、紅い唇に笑みを浮かべた。
「母親でもなければ、親戚でもないわ。…どちらかというと、私は貴女よ。」
「どぅあ???」
どういうことかさっぱりわからない。
思わず変な声を出す私を、美女は優しく抱き上げる。
なんじゃこりゃ、むちゃくちゃ気持ちがいい!
美女の胸元に抱き上げられた私。ふんわり温かな感触はなんともいえない心地よさで、もう痴女でもいい、と思わせるくらいだった。
いや、赤ちゃんだから痴赤ちゃん?というか、赤ちゃんなら許されるよね。
美女はふふっと笑って言った。
「ややこしくさせちゃったわね。私は、貴女の前の【ヌシ】よ。」
それでもやっぱりわからない私と、わからないことをわかっているみたいな美女と、ふわふわとんでる妖精と。
これ、どんな状況??
「私はラエンよ。貴女は…まだ勇者に会ってないから名前はまだないわよね?」
え、勇者?!
勇者って言った?今この美…いや、ラエン…様??
「ラエン様、じゃなくて、ラエン、よ。」
勇者という言葉に食い気味の私に、ラエン…は、もう一度自分の名前を繰り返した。
私が心の中で様をつけなかったことがわかったのか、ラエンはにっこりと満足そうに微笑む。
いやもう全てが美しい。
って、そうじゃないの、勇者よ勇者。
勇者に会ってないから、ってどういうこと?
私が勇者なんじゃないの?
「あらあら、違うわよ。」
私がそこからわかってないとは思わなかったのだろう、ラエンは金の瞳を丸くさせた。
「貴女は聖剣。勇者の剣よ。」
そう言って私を見つめていたラエンは、視線を花畑へと移す。
つられて私の視線もそちらへと動くと…。
「じゃっ」
『え、聖剣小っちゃ!!』
そこには、聖剣というよりは、ただの果物ナイフといったほうがしっくりきそうな、何の変哲もないナイフが、何の変哲もあることに空中に浮いていた。