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念願の異世界転生したら、勇者じゃなくて聖剣(幼女)でした  作者: きびだんご
0章 私、赤ちゃんになる
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0-1 私、振り返る

さて、少し整理してみよう。


私、橘美麗たちばな みれい。アラフォーに近いけど決して認めていないアラサー女子、独身。


いたって普通の家庭に生まれ、家族仲は適度に良好。やさぐれたときに飲みに付き合ってくれる友達もいるし、仕事もほどほど。


あえて普通じゃないところを挙げるとすれば、この、やたら美意識高めな画数激多な名前くらいか。おかげで学生時代テストのたびにガリガリガリガリ、名前書くだけで疲れたわ。


そして多分こっちがもっと普通じゃない点。


私は、いつかどこかで自分が勇者として異世界に召喚される物語を信じていた。


初めて習いたいと親に頼み込んだのは近所の空手道場だった。中学は剣道部があったし、高校は、基礎体力づくりに、と陸上部に入った。


玄関開けたら、地下鉄乗ったら、エレベーター降りたら、そのタイミングで喚ばれるかもしれないと、扉をくぐる前にはいつも気合を入れていた。足元に魔法陣が浮かび上がり、不思議な光に包まれて、気づいたら『おお、貴方様こそ、伝説の勇者!』と言われるもんだと思っていた。両親も友人も、そんな私を生温く見守ってくれていた。


勇者として喚ばれるなら十代だ、と思っていたけど、それからかれこれウン十年。


二十代になったとき、初めてあれ?と思ったけれど、もしかしたら賢者枠の勇者かもしれない、と今度は図書館に通い出した。そう、その頃時代は魔法使いブームだった。魔法の世界だったら剣で戦う勇者は不利かもしれないとか、いや、魔法使いは体力ないだろうからかえって私英雄じゃね?とか、非常に前向きに思ったものだ。


そうして迎えた三十代。さすがにヤバいんじゃないかと思い始める。三十代の勇者では、いくらなんでも若者と比べたらすぐ息切れしちゃう。筋肉痛だってすぐ来てくれなくなるし、回復するにも一苦労だ。


勇者を育てる師匠枠になるほどもプロな技術は持ってない。私の希望はあくまでも勇者。目覚めたら王様に呼ばれ、魔王でも竜でもいいけど、何かを倒す旅に出て、町の周りをぐるぐるまわって敵を倒して装備を整え成長していく勇者だ。


大人になってしまった今なら思う。


そもそもなんで世界の命運を、十代の、それも異世界の青少年に丸投げするのか、と。

大人、何やってんだよ、とか、『おお、勇者よ』とか言ってる暇あったら王様頑張れよとか、自分たちの世界で解決しろよとか、召喚されたいのに元も子もないことを突っ込みたくなった。それもこれも、キラキラした十代のときに喚んでくれないからだ。


さらに私は気づいてしまった。


最近の異世界への喚ばれ方が、魔法陣じゃなくなってきていることに。


この世界とさよならしないとあちらへ行けなくなってきていることに!!


交通事故に遭遇したり、不治の病に冒されていたり、ブラック企業で社畜としてこき使われた上の過労死だったり…。


交通事故は別として、私健康だし、会社は大企業ではないけどブラックでもない。そりゃ苦手だったり嫌な上司も同僚もいることはいるけど、ブラックとは程遠い。


私の取り巻かれている環境、異世界行きづらいんじゃないか??いや、むしろ、行けないんじゃないか??


気づいたときはショックだった。地元に戻って幼馴染に愚痴りながらやけ酒したものだ。ちなみに幼馴染には、「あんた、まだそれ、信じてたの?」とか、「ある意味あんた、ピュアだよね…」とかとか、やっぱり生温い目で見られた。


そうして二日酔いになった頭痛のする頭で私はひらめいた。


そうだ、誰も喚んでくれないなら、自分が喚ばれる物語を書けばいいんだ、と。


某有名鉄道会社の某キャッチフレーズのように、「そうだ、小説を書こう」と思いついたまでは良かったんだけど。小説の書き方なんて私は知らない。


でも、知らないから書かないではいつまでたっても話が進まない。空想の中でもいいから私は勇者になりたかった。


だから、大まかな筋を考えることにした。


まず大前提、平和に異世界へ行けること。嘘でも痛いのも死ぬのも嫌だ。私が死んだら家族や友人は悲しむだろうし、多分会社も悲しんでくれる、ハズだからだ。

それに死んだら戻ってこれないじゃないか。みんなに会えなくなるのは嫌だ。


話が進めば、誰かイケメンと大恋愛して戻ってきたくなくなるかもしれないけど、それはまだ何も考えてないから分からないし。魔法陣作って詠んだ魔術師とかが、元の世界に返してくれてもいいし、世界を救ったお礼に神様が出てきたっていいし、なんなら某有名子守ロボットの道具みたいに便利なドアとかがあってもいい。


とにかく平和で誰も傷つかない。これ、絶対。


2つ目は、勇者と聖剣のお話であること。

乙女ゲーもやってきたから、イケメンたちに囲まれてチヤホヤされながら聖女とか次期女王とかを目指すのもステキ☆☆とか思うこともあるけれど。


恋愛経験ゼロ、男女数人で遊園地くらいの経験値しかない私にそんな乙女ゲー小説は書けるはずもない。

それに私はイケメンに守られて『ああ、私のために傷つかないで!』とか言うよりは、『私が守る!』と敵に挑みたい。なんなら、イケメンも守ってみたいわ。


そうやって私は、夜ベッドに潜り込むと、寝落ちするまでの間、話を思いついては盛り、やっぱ今のナシ、と削ってはまた思いつき、と、小説を書く前の段階を楽しんでいたはずなんだけど。


「だあぁ〜」


赤ちゃんになる話は思いつきもしなかったんだけど。それとも思いが色々溢れちゃって、赤ちゃんになった新展開な物語を夢で見ているんだろうか??


そんなことを考えているとは思ってもいないんだろう。周りの妖精さんたちのふわふわはのどかだし、お花畑の景色も非常に平和。勇者要素も魔王の気配も何もない。


歩くこともできないし、どうしたもんかなぁ。


「あら、今回は随分と可愛らしい主なこと。」


突然、上の方から、声だけなのに美女のものだとわかる、艷やかで、ちょっと楽しそうな声が聞こえてきた。

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