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念願の異世界転生したら、勇者じゃなくて聖剣(幼女)でした  作者: きびだんご
1章 私、勇者に会う
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1-7 私のお世話がとまらない

朝起きると、ベッドの上から垂れている紐を引っ張ることから私の一日は始まる。


この紐、初めはなんの変哲もない、ただの太い組みひもみたいなやつだったのだけれど、

「キラキラしたほうが可愛いですよ~。」

「かわいいリボンもつけましょうね~。」

「お嬢様が持ちやすいように、輪っかをおつけしますね~。」

とお姉さん方がきゃっきゃと飾り付けた結果、やたらとメルヘンでファンシーな紐になりました。

それでもごてごてごちゃごちゃしていないのは、さすが貴族の屋敷の侍女さんたち。

プロを感じます。


最初の何日かは、起きるとそばに必ずアレンがいたけれど、今は紐を引っ張るとお姉さん方と一緒にアレンは顔を出す。


アレンがいないと私のことが見えないから何もお世話ができないから困るし、かといってよく寝る健康優良児な私が起きるまで、ただただぼーっとしていなくてはならなかったアレンがせめて朝の鍛錬がしたい、と言い出したことによって生まれた習慣だ。


紐を引っ張っても私には何の音も聞こえないんだけれど、特定の人に音が届くようになっているらしい。

Bluetoothでつながっていて音がつながる、みたいな感じらしい。

アレンと、身の回りのお世話をいつもしてくれる数人のお姉さんにだけ聞こえるようだ。

紐にデジタル的なものは感じないから、魔法とかなんじゃないかな。

ファイアーボール!とか言って攻撃魔法を使うんじゃなくて、日常に魔法が身近にある感じがなんだかすごい。

異世界って感じ。


朝から宝石がついたリボンとかで可愛らしく髪を結ってもらって、これまたフリフリふわふわしたかわいらしいドレスを着せてもらう。

ドレスに宝石類はついていない。

転んで怪我したら大変だからという理由だそうだ。

私が普通に歩いたり走ったりできるようになったら、宝石がついたドレスとか着せられるんだろうか。

今でもドレスと髪飾りや靴下とかがセットでそろえられている感じなのに、いったい幾らかかっているんだろう、と思うとひええ、となります、小市民です。

貴族、怖い。


朝ごはんは双子と食べる。

パパ上は一緒に食べてくれる時と、朝早くからでかけちゃっていないときとあるけど、双子は私の朝ごはんの時間まで待っていてくれているみたい。

私が起きるまでの間、それぞれいろいろとしているみたいで、朝食の席で二人が眠そうにしているのはみたことがない。

いつもきりっとパリッとしています。

こんな8歳、日本にはいないと思う。


朝ごはんと一緒に、妖精ズが「例のミルク」を出してくれる。

なぜキラキラしているのかとか、何のために飲むのかとかカイルがローラに聞いていたけど、

「主様はこれを飲まなきゃダメなのです。」

って言っていた。

前にラエンが食事はとらなくていいって言ってたから、食事以外での栄養源かなにかなのかな。

おいしいから飲むのは構わないけど、やっぱりよくわからない液体っていうのは深く考えると怖いよね。


ローラたち妖精ズは、私と同じように皆にも見えているみたい。

でもお花畑にいたときは他にもたくさん妖精ズいたけれど、ここにはローラたち三人しかいない。

ラエンとも相変わらず会えていない。

そしてローラたちの声は、カイルにだけ聞こえるみたい。これだけは、アレンがそばにいてみんなに見えていても声はカイル以外誰にも聞こえないみたい。

私の考えた世界にしては複雑で、なんだか難しそうな仕組みがあるんだなあと思った。


「例のミルク」も少しだけレベルアップしていて、哺乳瓶だったのが、ストロー付きになりました。

倒れてもこぼれない高性能コップ。

フラペチーノとかテイクアウトするときのカップで、ストローがくっついていて外れなくなっている感じ。

身の回りのものが、日々少しずつ変化していっているのが、成長している気がしてちょっとうれしい。


朝ごはんを食べた後に、服を汚してしまったら着替える。

ドレスが替わるのにあわせて髪飾りとか、髪型まで変わるんだけど、さすがに時間がかかるから嫌がったら、ドレスだけになったし、最近はそれすらなくなって、朝の着替えの時に白いエプロンを一緒に着けるようになった。

ごはんを食べたらエプロンをとるだけ。

快適。

他の貴族のお嬢様は、朝着替えた服をすぐにまた着替えたりするものなんだろうか。

そんなに服ばっかり着替えていたら、一日なんてアッという間に終わってしまわないのかな。

私には無理だな、と思ってから、別に私は聖剣なんだから、ドレス着てパーティで「おほほほほ」と笑ってなくてもいいのか、と思い直した。

・・・といっても、聖剣としてなんの活躍もできそうにない現状ではあるんだけどね。


その後はアレンにくっついてお出かけしたり、パパ上に会いにいったりするときもあれば、室内でお姉さんに本を読んでもらったり、お絵かきしたりする。

お出かけといっても、パパ上の屋敷の敷地から出ることはない。

出なくても十分広いっていうのもあるんだろうけど。

アレンとカイルも屋敷から出ることはない。

代わりに今まで教会や騎士団本部で鍛錬とか勉強していたのを、先生に来てもらって屋敷で勉強することになったみたい。

カイルとは離れることはあっても、基本アレンとはいつでも一緒だ。

声は聞こえなくても仕草で意思疎通はできるけど、見えないとどうにもならないもんね。


アレンが剣の訓練をしているときは、少し離れた場所で過ごせるように、パパ上が東屋を建ててくれた。

東屋といっているけど、貴婦人がお茶を嗜むのが似合いそうなおしゃれ空間だ。

かどうかはわからないで編まれたテーブルや椅子は、繊細な文様まで編み込まれているけど、少しくらい強い風が吹いてもびくともしないくらい大きくて、どっしりとしている。

テーブルの上板部分は、真っ白だけれどよく見ると石の模様があって、お高そうなテーブルだし、椅子もふかふか、私の身丈ほどもありそうなクッションもいくつか乗っている。長時間座っていても体は痛くならないし、昼寝だって出来てしまう。

即座にこんなものが用意されてしまうなんて、好待遇に驚くべきか、パパ上の財力に感動するべきか。


今日も東屋でお姉さんが用意してくれたお菓子と冷たい飲み物を飲んでいると、アレンもいったん休憩になったみたいだった。

アレンが汗を拭いていると、アレンの先生ロナルドが、攻撃をしかけようとするときに軸足にぐっと力をいれる癖があるからバレやすいとかなんとかアレンに指導している。


ロナルドは赤味のつよいオレンジ色の短い髪に黄色みがかった瞳をもつ細マッチョなイケメンだ。顎のラインや体格からすると、二十代か、三十代でも前半だと思う。少年らしい線の細さは消え始めているけど、パパ上たちみたいな厚みはまだない感じ。


初めて会ったときに「年下だな」と感じた。いや、今の私からみたら全然年上なんだけど。


ニカッて音が似あう笑顔の、面倒見の良い兄貴って感じかな。

初めて会った時こそさすがに、聖剣な私に少し戸惑っている感じはあったけど、すぐに普通に接してくれるようになった。

ロナルドとは別にもう一人、弓の先生がいるらしいけど、今は遠征に行っているとかでまだ私は会っていない。


(お腹空いているだろうし、おやつでも持って行ってあげよ。)

食べかけのドライフルーツが入った食感の楽しいクッキーをもしゃもしゃ、と口に全部入れてから、両手に一枚ずつクッキーを手に取り、よいしょ、と椅子からジャンプして飛び降りる。


ぷう、ぷきゅ


途端緊張感のかけらもない音が足元から聞こえて、話し込んでいた師弟がこちらを向いた。


ぷきゅ、ぷう、ぷきゅ、ぷう・・・・。


私が歩くたびに、靴底から気の抜けた音がする。

私が見えなくなってしまった時でも、どこにいるか分かるように、パパ上が作らせたクマさんの人形がついた靴だ。

ちなみにネコさんやうさぎさんバージョンもあるし、音もいろいろ違う。

パパ上のこだわりや気遣いが、違う方向に進んでしまっている気がしてならない。


ロナルドはしばらく目を丸くしてこちらをみていたけど、やがてくっくっ、と笑いながら私に声をかけてきた。

「ごきげんよう、お嬢。今日はえらくかわいい音じゃねえか。」

昨日までは静かだったと思うけど、と楽しそうだ

「音が鳴る靴とは、閣下も面白いことを考えたな。確かにこれならお嬢がどこにいても誰でもわかるな。」


笑っているが、バカにしている感じはまったくない。

ロナルドたち騎士にとって、尊敬と憧れの対象であるパパ上の思い付きに、心から感嘆している様子だ。

でも、音は別みたいだけど。


「いや、こりゃ可愛いな。これ、市場に出したら売れるんじゃないか?」

でも小さい子がみんなぷぎゃぷぎゃ言っていたらちょっとうるさいかな、なんて言い出す始末。

どうやら音が鳴る靴は、この世界では画期的な発明のようだ。


笑いすぎじゃない?と私はぷう、ぷきゅ鳴る音と一緒にアレンたちに近づいていく。

「ロニャ、笑う、めっ。」

「はいはい、悪い悪い。」

全然悪いと思ってなさそうだし。


「アーレ、あい。」

「あ、ありがとう。」

右手に持っていたクッキーをアレンに、

「ロニャ、あい。」

「お、俺にもくれるの?ありがとさん。」

左手のクッキーをロナルドに手渡す。


いつの間にか隣に来ていたお姉さんが、お盆の上に冷たい飲み物を入れたジョッキを用意していたので、二人はそちらも手に取ると、クッキーを一口かじってからぐぐっと飲み物を飲む。

鍛錬後にクッキーとか、口の水分奪われるというのに、ちゃんと一口でも先にかじるところが、師弟そろって義理堅いというか優しいというか。

こういう何気ないところで人となりって感じるもんなんだな、と思う。


視界の隅に、二人が剣を置いている台があったので、ぷぎゅ、ぷぴゅ、と音を立てながらそちらへ近づく。

木でできた簡単な台だ。

傘立てよりは大きいし高さもあるけど、冬にスキーやボードをするときにロッジに入るためにスキー板を置くような台よりは小さめの台で、一台で5振りが納められるようになっていて、見回すと広場のあちこちに似たような台がおいてあり、そちらは剣ではなく木剣がたてかけられていた。

他の場所にも置いてあったから、いつでもどこでも鍛錬ができるようになっているのだろう。

剣客だったら、非常に恵まれた環境なんだろうな、と思う。


ロナルドの剣は、見た目武骨というか、素朴な感じの剣なんだけど、よくみると柄のところに細やかな細工が施されていて、普通の「銅の剣」とか「鉄の剣」とか言った感じで量産されているものよりも良いもののようだ。

銀のチェーンとその先に小さなオレンジ色の球がついたかっこいい房飾りもついている。7個集めたら願い事がかないそうな球だけど、赤い星とかは入っていなくて、球よりも濃い色のオレンジのモヤモヤが入っていた。


「火?」

よく見ようと手を伸ばすと、

「あんまり近寄ると危ないぜ。」

とロナルドに抱っこされてしまった。

「中、もやもや?」

なんだこれ、と指さして聞くと、ロナルドが、ああ、これか、と気づいてくれた。

「そっか、お嬢は知らないよな。」

ロナルドは私を下すと自分の剣を持つ。それから房飾りを取り、私にもよく見えるように目の高さに持ってきてくれた。


「これは、火炎魔法が中に封じ込められてるんだよ。」

「まほー?」

「そう。もうこれ以上戦えない、ってくらいヤバい状況になったときに、これを解放させると最後の一発を敵にぶちかませるようになってる。普通はそんなに強い魔法は高くて買えないし、そもそも球に封じ込められないから、どこまで効くかわかんないけど、これは特別製なんだぞ。」

まあ、お守りみたいなもんだけどな、と言ってロナルドはわはは、と笑って房飾りをもう一度剣に着けた。

軽く言っている割には丁寧な手つきで、大切にしていそうな感じが伝わってくる。

ひょっとしたら、彼女にもらったものとかかもしれない。

(ま、私は空気よむ大人だから、そこは突っ込まないけどね。)

ニマニマ笑いつつ生ぬるい視線を向けていたら、ロナルドに気色悪がられた。

こんな美少女相手に失礼な。


それに対してアレンの剣は、ロナルドのよりも大分細くて、きれいだった。

文様とかは彫られているけど、宝石までは埋め込まれていない。子供用の剣なのかもしれないが、お高そうだ。

その隣に、剣としてたてかけるには残念なほど短いために、台の上に置かれている聖剣もある。

どこまでも不憫な聖剣だな、と思ってから、アレンの剣には飾りがついていないことに気づいた。


「アーレ、ドラゴボー、にゃい。」

「ドラゴボー??ああ、房飾りのことか。」

ロナルドが私の言葉に気づいて言い換えてくれる。


「ああ、俺まだ実戦経験ないし。」

「??」

アレンは飲んでいたジョッキをお姉さんに渡すと、私をだっこしてから近くの花壇に腰かけた。

坊ちゃま?!すぐ椅子をお持ちします!!とかお姉さんが慌てているけど、アレンは気にすることなく私を膝の上に抱っこして頭を撫でてくる。


「あれは、初陣の証にもらうものなんだ。」

最初は家族だったり師匠だったりからもらうことが多い房飾りは、物によって魔法が封じ込められていたり、教会で祈りをこめてもらったりする。それからは戦いがあるたびにプレゼントされたり、欲しい効果の籠められたものを自分で用意したりするものだそう。


「ロナルドのは、何回か前の剣術大会で準優勝したときの賞品じゃなかったっけ?」

「そ。だから俺のは特別製。閣下が籠めてくれた魔法が入っているから、多分反則級なやつ。」

「・・・ロナルドが危険な目にあったら、どうなるのかが怖いよ・・。」


えー、パパ上、一体何込めたのよ…。

アレンの言い方からすると、発動したら最後、その場を焦土と化しかねない雰囲気だ。

でもそっか、彼女からではないのか。

「ロニャ、ファイっ」

ちょっと不憫がったのが伝わったのか、

「ふぁい?…でもなんか、いたたまれない気になるぞ。」

ロナルドは、複雑そうな顔をした。


でもそっか、プレゼントされるものなのか。ロナルドは敬愛するパパ上からもらえて満足気だし、アレンもそのうちパパ上からもらうのかな。


いや、ちょっと待て。ここは、私の出番じゃない?

聖なるオーブみたいなやつ、私が出すべきじゃない?

勇者のピンチにピカッと光ってチートな効果を発揮して辺りをすべて浄化する、そんなオーブ、出せるの私なんじゃない???

なんならいでよシェン◯ン!なんじゃない???


「シア?どうしたの??」

急に膝の上でガッツポーズを取り出した私を不思議そうに見下ろすアレン。


「シア、ドラゴボー、アーレにあげたい。」

私、って発音ができないのよねー。それで自分のことシア呼びになっちゃうの、毎回言うたびにちょっと恥ずかしいんだけど、みんなが微笑ましい感じになるのがまたくすぐったいのよね。


でも珍しく、言いたいことは言えたから満足。房飾りはドラゴン◯ール決定になってるけど、そこはご愛嬌。ゆるして。


アレンは、驚いたように目を丸くしてから、ううん…と難しそうな顔をした。

「それって、…どうやるのかとかは置いといて…できちゃったら父上のよりとんでもないんじゃ…」


聖剣みずから勇者に与える霊験あらたかな房飾り。


「確かに、聞いただけでもとんでもねぇな。なんなら国宝じゃね?」

ロナルドまでそういい出した。


国宝?!そんなレベル?!


…いやでもたしかに、そうなる、のかな。聖なるオーブ、なんて言ったら、ゲームとかでもラスボス前に1個だけ手に入るとか、使ったら砕けてなくなるとか、なんかそういう扱いになる気はする。…作れたら、だけど。


そう、問題は、「作れたら」なのだ。

なにせ私は聖剣とはいえ、果物ナイフの化身ないたいけな美少女。

何ができるのか?

そんなこと、私が知りたい、誰か教えて状態で、ただただ日々甘やかされて過ごしている何もできないお嬢様。

「でもシア、まほーわかんない。」

「…」

確かに…な雰囲気になる。


アレンは私を抱っこしながら、ずっとゆらゆら揺れてくれている。

ちゃんと落ちないようにしっかり支えてくれるできた子。

んー、と言いながら何か考えているみたいだったけど、シア、と言って私の顔を覗き込んだ。

「剣は危ないからダメだと思うけど、俺と一緒に、魔法の勉強、できるように父上に聞いてみる?」

「お、それがいいんじゃないか?お嬢も一緒に学べばいい。」

ロナルドも名案だ、とばかりに賛成する。


そういうことで私たちは早速このあとパパ上にお願いすることにしたのだった。


聖剣に教えるんですか??と魔法の先生が私には無理ですっとなっちゃって、しばらく魔塔が蜂の巣をつついたかのような大騒ぎになったらしい。

皆どうやら今までの聖剣たちを想像したらしく、聖剣とはいえ幼い子どもだからとか、なんとかかんとかなだめすかして、大変だったとか。

なんなら私が、と魔塔主とかいう一番偉い人が出てこようとしたもんだから、そっちはそっちでお待ち下さいお年を考えて下さい、とかって大騒ぎになったとか。


いやなんか、色々申し訳ないわー。

軽く考えただけなんだけど、びっくりするくらい大事になってしまいました。


果物ナイフとはいえ、私自身何ができるのかすら分かっていないとはいえ、このままでは周りに申し訳ないな、と思った出来事だった。

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