1-6 聖剣は 名前を手に入れた!
「はい、美少女!」な名前をもらいました。
ヌシ改めロレイシアです。
いやちょっと、なかなかどうして良い名前じゃない?
こう、なんとなく、水っぽい感じがして、私の青っぽい髪に合っている。
なんで水っぽく感じたのかは聞かないでほしい。私もわからない。
赤よりは青い気がしたの。そう思ったのだから仕方がない。ぽいぽいしか言えない自分の語彙力が残念すぎる。
名前をもらった私。
でも別に、変な効果音も流れなかったし、聖剣としてレベルアップした感じもなかった。
一日でいろいろな人に見えるようになったから、それ以上はレベルアップしないみたい。
そう、これが問題。
色々な人に見えるようになったことはなったんだけど、アレンがいないと見えなくなってしまうみたい。
同じ部屋にいるくらいなら大丈夫なんだけど、それ以上離れると皆から見えなくなってしまう。
見えなくなるだけでなく、声も触るのもダメみたい。
妖精ズじゃない、人間のメイドさんかな、お仕着せを身に着けたお姉さんたちが、あたふたとその場から動いていない私を探し始めたし、ベットに寝てるままの私に触れても、スカッと手が空振りしていたし。
もちろん、カイルは、姿が見えなくても声は聞こえるし、パパ上は抱っこ出来ていたけれど。
難儀すぎる。
というわけで、必然的にアレンが常にそばにいることになった。
ごはんも一緒、寝るのも一緒、お風呂だって一緒だ。
一応私心は成人女性だから、少年とはいえ異性とお風呂だなんて破廉恥な、と思ったけれど、そこは貴族。ちゃあんとお姉さんたちがお風呂のお世話をしてくれました。
赤ちゃんが入る携帯できそうなお風呂のようなものをはじめは用意されたけど、首のすわらなかった赤ん坊から幼女へレベルアップしたので、携帯お風呂が浅すぎて。
急遽本宅のお風呂に段差を作り、アレンたちと一緒に入ることになったのだ。
大浴場のようなお風呂。お風呂好きにはありがたいけど、赤ちゃん風呂からの差が激しい。
アレンとカイルは一緒にお風呂には入っていなかったらしく、お風呂に行ったらカイルもいたことにアレンは嫌そうな顔していたけど。カイルは全然気にしない様子でにこにこしていた。
皆で一緒にお風呂、といっても、きゃっきゃと水遊びするわけでも、おしゃべりするわけでもなく淡々と入浴するだけなんだけどね。
そうそう、本宅といえば。
私が最初パパ上にあった場所は、騎士団の本部だった。
しばらくは本部にいたんだけど、幼い子供が過ごすような場所ではないとかで、パパ上やアレンたちの家に私の部屋やらお風呂の段差やら、諸々の準備が整ってからはそちらへ移りました。
騎士団本部も、城か砦か、と思ったけれど、パパ上のおうち超豪華。
貴族万歳。
領地もあって、そっちにもパパ上の騎士団とかあるみたいだけど、基本パパ上王城勤務。
それもあり、また領地の騎士たちが来ても大丈夫なよう、広さだけは王城に次ぐほどの広さなんだって。
馬車に揺られておうちに向かっていた時に、カイルが「家に着いたよ」といったのに、窓から見える景色がいつまでたっても森の中だったから、どういうことかと思ったわ。
玄関、と言っていいのかわからないくらいもはや屋外の廊下のような玄関で、アレンが私を抱っこしたまま、ぐるりと一回転してくれたけど、「家」以外にも建物がいくつもあるし、森も広場みたいなところもあるし、貴族怖っ!ってなった。
「でも家は、広さはあるけど、豪華ではないよ。」
カイルはにこにこ笑っていたけれど、十分豪華です。
確かに、前世というか、元の世界では、王城というと天井に描かれた絵画だとか、壁一面に金の額縁で縁取られたお高そうな絵画とか、なんなら柱一本だって蔦みたいなのが絡まった彫刻がされているとか、無造作に置かれているツボ一つとっても、私の年収何年分よ、とか、そういう感覚からするとそこまで調度品がキラキラギラギラしていないから、貴族からみると豪華ではないのかもしれない。
私が何かしようとするたびにサイズが合わなかったりすると、即私にあわせた家具やら調度品やらが揃えられるのは、一般市民感覚からは程遠い。
貴族怖っ!
「シア、何かいているの?」
私が今までのことを振り返りつつもお絵かきに興じていると、カイルが近づいてきて声をかけてきた。
ロレイシアは長いらしく、パパ上と双子のシュバイツェルファミリーは、短くシア、と呼ぶことが多い。
「パパ上ー。」
ふんふん、と鼻歌まじりに筆を動かしながら答える。
中身成人女性ですが、お絵かき楽しいのです。
ここ大事です。成人女性です。中年女性ではありません。現代では女子大生の年齢でも昔だったら年増呼ばわりされていたとか、失礼極まりないと思う。花の命は結構長いのです。
それにしても、お描き飽きない。お昼ごはんを食べた後、少し昼寝をして目覚めてからはずっとお絵かきをしている。
他にも、絵本を読んでもらったり、ぬいぐるみで遊ぶのも楽しい。
外身というか、現在の見た目年齢に精神も寄っているのかもしれない。
絵本はまだ、こっちの世界の知らない話ばかりだから楽しいのは当たり前だけど、おままごとが好きな成人女性は、いなくはないと思うけど、私は違ったし。
紙一面に黄色の丸を描いた後に、緑のお目目を書いていく。
体もなけりゃ、顔も全部パパ上の髪色に似せた黄色の丸という暴挙だが、私はご機嫌だ。
「・・・・・顔も髪じゃん。」
私の隣に座って小難しそうな本を読んでいたアレンがちらりとこちらを見てあきれたように言うがいいのだ。パパ上の金色の髪と、立派な眉毛の下にある鋭い緑色のお目目。そんなお目目が私をだっこしてちょっとだけ緩むのがたまらない。
イケメンはそれだけで正義だと思う。
「シアは本当に、父上が好きなんだね。」
「うん。」
にこにこしながらカイルが頭を撫でてくるのに即答する。
アレンが整えてくれた髪を崩さないように丁寧な手つきは、ほんわかしちゃうくらいに心地いい。
私の近くにいるようになって、アレン、私の世話を覚えました。
あの子、いつも仏頂面でめんどくさがりなところがあるのに、何度かやっているうちに私の髪をきれいにまとまられるようになった。
近くにいるから、自分がやったほうが早いらしい。待っているのがつまらないんだそうだ。
何回かお姉さんたちがやってくれるのを見てただけなのにすごいと思う。
器用というかなんというか。
ママ上のことはわからないけど、パパ上要素からも、本人の美少年ぷりからも将来期待値高めのイケメン間違いなしなのに、そこに女子のお世話ができるとか、気遣いできるとか、この双子末恐ろしさしかない。
仕方ないな、パパ上完成したし、双子も余白に描いてやろうじゃないか。
パパ上は大好きだけど、いつも一緒な双子のことも好きだし。
「でもシア、僕は父上と同じ描き方でいいけど、アレンは黒い丸になっちゃうよ?」
確かに。
この描き方では、黒髪のアレンはただの黒い丸になってしまう。真っ黒丸では目が描けないから困った。
顔を先に描くといいかもね、とカイルは肌色のクレヨンぽいものを渡してくれた。
そういえば、この色肌色って習ったけど、今は違う言い方するんだよね。なんだったかな。でもみんなのお肌の色、いろいろあるけど、そんなに色の種類があるわけでもないから、やっぱり顔を描くとするとこの肌色になっちゃうよなあ。
「薄橙を使うと、みんなの顔が描けるよ。もう一枚描いてみる?」
うすだいだい!
ああそんな言い方だった気がする。
異世界に来ても多様性だなあ、とか、こっちの方が妖精とかもいるくらいだからそりゃあ多様性だよなあとか思いつつ、カイルの言葉にうなずいた。
「何枚か描いたら、僕に一枚ちょうだいね。」
にこにこカイル。
欲しいのかい?この丸が???
自分で言うのもなんだけど、幼児な私としては満足しているけど、でもこれ、ただの丸に点々がついただけの落書きよ?なんなら丸だって、タイヤだったら走れないくらいのがたがたした、丸というのもおこがましい代物よ?
「シアが描いてくれたらなんでもうれしいから。」
にこにこカイル。なんなのあなた、天使なの?私の方が聖霊的なもののはずなのに、まぶしすぎる笑顔だわ。
なんて良い子なんだろう。余白に描こうとしてごめんなさい。ちゃんと新しい紙にカイルを描くわ。
そう意気込む私のそばで
「・・・黄色い丸なんてもらってどうするんだ?」
心底謎だ、と言わんばかりのアレン。
失礼な。なんなのこの双子。本当に双子なの?!アレンには一枚もあげないんだから!
「そんなこと言うと、アレン描いてもらえないよ?」
私の思いを代弁するかのようにカイルが言う。
その通りよ。アレンには描いてやるもんか。
「・・・もらっても困るし・・・。」
ぼそりと漏らすアレンに、
「アーレ、ないない!」
ぷんすか怒って叫ぶ私。
ほら、と言わんばかりに苦笑するカイル。
そんな私たちを少し離れたところから見守るお姉さん方とふよふよ浮かぶ妖精ズ。
聖剣を携えた勇者が旅立つ、なんてことにはまったくなりそうにない平和な光景がそこにはあったのだ。
ここにパパ上がいたら完璧なんだけどな。
「父上はお忙しいからね。夕食には会えるといいね。」
ふと思ったら、すぐにカイルが声をかけてくるのでびっくりする。
え、何今の。私、声に出てないよね?思っただけだよね?
驚いた顔で見上げるけれど、カイルはにこにこ笑顔のまま何も言わない。
あれ、そういえばさっきも、私何も言ってないのに会話が成り立っていたような・・・。
もしかして、私が思っていたこと、聞こえてるの?
じっと見ていても、カイルの表情はかわらない。
「・・・どうした?」
怒ったのにだんまりになった私を不思議そうにアレンが見てくる。
何も言わないカイルと私をきょろきょろ交互に見るアレン。
気のせいだろうか。それともこれは、声が聞こえるカイルのオプション的な能力なんだろうか。
心の声まで聞こえてしまうのは困るけど、幼児言葉しか話せない現状としては助かるような・・・。
カイルを見つめても何も言ってくれないから、どっちなのかがわからない。
平和だと思っていたのに、なんだかちょっと背筋が寒くなってきた。
心の声駄々洩れとか、正直困る、というか怖い。
パパ上イケメンとか阿呆なこと言ってるのばれるのも恥ずかしいし、異世界とかそういうことも、この世界のカイルに知られるのはまずいような気がする。
あまりに見つめすぎたのか、カイルがにこにこ笑顔をちょっと崩して、困ったような笑顔になった。
「シアの考えていることは、見ていると大体わかるよ。」
顔にすごく出るもの、と言ってほっぺたをつついてくる。
「のんきそうな顔をしている。」
アレンもそういって頷いている。
アレンの憎まれ口に、ぐぬぬ、となるけど、そういうことか、と内心ほっとした。
よかった、顔に出ていたからわかっちゃっただけなんだ。
ところが、そう思っている私に、カイルが一言。
「平和だねえ。」
え。これ、どっち???




