1-4 勇者の父まで美青年
非常に面倒なすったもんだを行った後、なんとかかんとか勇者の家?らしきところへ移動しました。
いやもう、大変よ。
私が見えてる黒髪アレン君は、あわよくば見えなかったことにしようとしているのか、目をそらそうとするし。
私の声しか聞こえないカイル君は、そんなアレン君になんとか私を運ばせようと頑張ってくれた。
そして、名前がわからないけどムキムキマッチョなザ・実直騎士みたいな彼に至っては、私の姿も声も当然聞こえない中、多分主であるだろう少年二人が宙に向かってわたわたしているのを黙って見守っていたんだけど、彼の中で何かを納得させたのだろう、何も聞かずに馬車の手配から、あちこちに言伝を頼むことから、多分いろいろもろもろなことをやってくれたっぽい。
マッチョと侮っていたけれど、彼、多分有能アンド良い人認定を、私の中で勝手に決めました。
そんなこんなでアレン君に抱っこされてやってきた勇者君たちの家。
いや、これ、家???城??砦????
とにかく豪邸。
馬車に揺られ、しかも体温の高いお子ちゃまの腕の中だったから、非常に心地よく眠ってしまったため、どこをどう通ってきたかとか全然わからないんだけど、馬車を降りたらすぐに準備していたらしき騎士の格好をした人たち数人。
いろんな人がアレン君たちといろいろ言葉を交わしているんだけど、会話が早すぎて私にはいまいち理解できない。
困ったなあ、これ、私の理解力とか、赤ちゃんのレベルに合わせてある感じかな。
私の思っていることだって、全然言葉にできないし。
すぐ眠くなるし。
妖精ズと接しているときは、そんなに不便を感じなかったんだけど、たくさんの人間に囲まれると不便なことがいろいろと出てきてしまう。
これ、どうやってコミュニケーションとればいいんだろう?
しばらく進むと、アレン君たちが立ち止まった。
「戻ったか。」
少し低めの、良い感じの声が聞こえて、私は勢いよくそちらを見た。・・・といっても、首もそんなに動かせないので、視線だけで必死に。
「ぎゃ!」
「え、何、どうしたの?」
私の悲鳴のような声に、カイル君が反応する。
当然私の声はカイル君以外には聞こえないようなので、ほかの人は何事か、とカイル君を見る。
私の声が聞こえなくても、体がびくっと動いたのは感じたのか、アレン君も
「どうしたの?」
とこちらをのぞき込んできた。
美少年たちに見つめられるのもなんともいえないくすぐったい感じでいいんだけれど、それよりなにより先ほどの声!
声だけでもうわかる、イケメンボイス!!!
低すぎず高すぎず、それでいてなんともいえないイケメン臭がプンプン漂う声の主は、私たちがいる場所から一番離れたところにいた。
部屋の真ん中に、20人くらい座れそうな大きくて頑丈そうなテーブルが置いてあり、そこの一番奥の席に座る金髪イケメン。
30代くらいだろうか、20代・・といえるくらい若そうな気もするけど、偉い人っぽい雰囲気がすごくする。私も一応武術,たしなんできたからわかる、その辺の道場主程度では太刀打ちできそうにもない威圧感が、「え、やだイケメン。」とか軽々しく言っちゃいけない雰囲気を出している・・・んだけど、イケメンはイケメンだ。
テレビの向こう側にしかいないレベル。・・・でも誰かに似ている感じ・・・。
『あ、全盛期のレ〇様じゃない?!やだちょっとジャックが船を無事に降りたあとに何年かたった感じ!』
うーん、ちょっと違うかなあ。
レ〇様ほどの透き通った少年感はないんだよね。
きらめいてはいるんだけど、もうちょっとどっしりとしているというか、体に芯がしっかり通っている感じ。
・・・あ、指輪の映画に出てきた弓無双なエルフが髪切って前髪作った感じ?
眼福なんてもんじゃない。拝み倒したくなるレベルだわ。
え、やだ勇者こっちがいい。
肩に美少女を乗せて颯爽と草原を駆け、弓を射るレゴ〇ス様・・・。
いい・・・。
「なんか動かなくなっちゃったけど・・・。」
アホなことを考えていたら、心配しているのかアレン君が、ほっぺをつんつんつついてきたわ。
いけないいけない、なんか夢の世界に行ってしまっていたわ。
はっと我に返ってアレン君を見ると、「あ、よかった動いた」とかなんとか、赤ちゃんにむかって言うにはどうかと思うことを言いながら、レ〇ラス様の方を向く。
「父上、ただいま戻りました。」
父上!!
そうかだからか!!
納得のイケメンぶり。
そりゃ、こんな美少年だもん、父親は当然イケメンだよね。
うらやましい家族だわ。
漫画だったら絶対花背負ってくるやつだよ、これ。
いいなあ、キラキラ家族。人生楽しいんだろうなあ。
別に私の家族が嫌いってことじゃないのよ。自分の家族は大好きだ。
でもほら、なんていうの?レッドカーペットは、似合わないからね。
ざ・素朴な一般家庭。
対してこちらは銀幕レッドカーペットどんとこい。どんな写真も表紙を飾れるよ。
勝ち確定だよね、こんなの。
私がやさぐれている間に、アレン君たちは父とよんだイケメンの方へ近づいていく。
「それで、アレンが今抱いている・・・のか?」
残念、パパ上には見えていないらしい。
なんとなく、私まで父上呼びするのも変だし、でも名前知らないから、とりあえずイケメンのことはパパ上と呼ぶことにした。
アレン君が、「はい、ここに。」とか言いながら抱っこしている私をパパ上に渡そうとする。
「・・・・。」
パパ上は、見えていない様子だったけれど、戸惑いながらも手を伸ばしてくれた。
「!!たしかに・・・。」
すると、なんということでしょう!
さすがパパ上、勇者の父だから??
確実に見えてないっぽいのに、私のこと、触れてる!!!
目を凝らして私を見てみようとしている緑の目!
やだもう、イケメン!!
こちらが頭か?とかアレン君に確認しながら、大きな掌で抱き上げてくれる。
さすがの大人の安定感!
いかにも騎士!って感じの父上だから、育児なんかしたことないんじゃないか、と思っていたけど、慣れた感じの手つきで抱きかかえてくれた。
ちょっと固めなんだけど、すっぽり抱えてくれるのが、いい!
軽っ、とか言ってはいたけど、やっぱ小学生くらいの少年の抱っことは安心感が違うわ。
「それで、白の草原の方はどうだった?」
パパ上が尋ねると、双子は何て言えばいいのか困った様子で顔を見合わせる。
かわりに、一緒に草原に来ていた実直騎士君が答えてくれた。
「それが・・・。草原の中心だけが色とりどりの花が咲いておりまして・・・。白の草原の中心部に花畑が広がっておりました。」
「色・・・?赤とか、黄色とか、一色ではないのか?」
せっかく私を見てくれていたのに、パパ上は騎士君の言葉に顔を上げてしまう。
騎士君が肯定すると、つられて双子君たちもうなずいた。
「そうか・・・。それで、カイルが声を聞き、アレンが赤子の姿を見て、ここまで連れてきた・・・と。」
こくこく、とうなずく双子。
首振り人形みたいで可愛いわ。
あ、なんで私が髪も目も違う彼らが双子と知っているかというと、馬車の中で、見えてる兄と聞こえる弟なんて、双子でも違うんだねえ、とかなんとか話していたのを聞いていたからだ。
たしかに双子といわれるとびっくりするかな。
双子って、髪とかも一緒だとばかり思っていたから。
日本だと、みんな黒髪だからなあ・・・。
一卵性とか二卵性とかで違うのかなあ、それともそもそもファンタジーだから細かいことを気にしちゃダメなのかもしれない。
私、まだここが現実なのかどうかわかってないしね。
「剣は、見つけたのか?」
パパ上は、双子を見つめたまま尋ねる。
私のことは無言であやしながら。
ちょっとゆらゆら揺らしてくれるのが心地よくて、寝ちゃいそうになって困るわ。
そうよ、聖剣!・・・・だと思われるナイフ・・・。
皆見えてないもんだから、そしてアレン君もかたくなに見ないふりをするもんだから、ずっと放置されて浮いたままなのよ。
聖剣なのに、なんて不憫な・・・。
双子君を見ると、二人は顔を見合わせて黙っていた。
けれど、ちらっとアレン君が、後ろを振り返る。
そう、彼には見えているのだ。
空に浮かぶ、不審者レベルマックスの果物ナイフが。
「そこに、あるのか?」
パパ上が尋ねると、カイル君が答えた。
「ぼくには見えないんですが・・・アレンには見えているようです。でも、よくわからないからまずは父上に報告してからにしようと思って・・。」
「アレン、手に取ってみなさい。」
「・・・・・・はい。」
パパ上に言われて、アレン君、一瞬むちゃくちゃ嫌そうな顔した。
失礼な。
聖なる剣だよ?見た目はアレだけど。
見える人見えない人がいる感じだし、誰でも持てるやつじゃないんだから、そんなあからさまに嫌そうにしなくてもいいのになあ・・・。
ぷかぷか浮いているのは確かに怪しいから、強くは言えないんだけど。聖剣の精的な私としては、いたたまれない気持ちになる。
アレン君は、覚悟を決めたのか、聖剣に近づいていく。
トボトボと歩いていくから、突っ込みたくなるけど。
やだわ、もうちょっと勇者らしくきびきびしてほしいわ。
ゴクリ、と音が聞こえるくらい喉を鳴らすと、ゆっくりと手を伸ばして、聖剣を手に持った。
途端、アレン君はまばゆい光の中に包まれた。
『わ、まぶしい!』
思わず私も目を閉じる。
しばらくして、とじた瞼の向こうの光が落ち着くのを感じて目を開くと。
・・・・・・・・。
特に劇的な変化はなかった。
ただ、アレン君が聖剣を両手で持っているだけで、あえて言うなら、聖剣がまだちょっとぴかぴか光りを放っていることくらい。
いや、剣が光っている自体驚くべきところなんだろうけど、なにせ今まで何日も、空に浮いている聖剣をみていたから、そこまで驚かないというか、斬新さはないのよね。
なんて思っていると、周りから「おおっ・・・。」とか感嘆らしき声が聞こえてきた。
「なんと・・・・。」
パパ上も、聖剣を持つわが子を見てから、私に目を合わせて驚いた顔をする。
・・・・ん?
目を合わせる・・・・???
「パパ上、見えてる???」
「「「「「「「!!!!!!!!」」」」」」」
何人かが一斉に驚いたら、こんな音がするんだろう、って音がした。
「??パパ上?どしたの??」
そこに重なる、舌っ足らずな幼児のかわいらしい声。
「「「「「・・・・パパうえ・・・・・」」」」」
・・・・・・・・・・・・・・・ん???
キョロキョロと、周りを見回す。
一様に驚きを浮かべた顔、顔、顔・・・・・。
ん?キョロキョロ???
私は、首がすわるかすわらないかくらいの、いたいけな美少女赤ちゃんだったはず。
見上げると、パパ上のそれはもうきれいな緑色の瞳。
その瞳に映るのは、青銀色の長い髪をもつ、幼稚園児くらいのとんでもない美少女。
「ぎゃ!おっきくなってゆ!!!」
しかも、見えてる???!!
慌ててキョロキョロまたしても周りを見回す。
どうすんの、これ、どうしたらいいの?
誰に助けを求めたものか。
双子君はびっくりした顔で停止しているし、周りを囲む騎士ズは、イケメンぽいのもいるけど、基本がっしりみっちりしたおじさんたちが多いので、ちょっと怖い。
「わっ。」
体が浮く感じがして見上げると、パパ上が私の両脇に手をいれて、自分の高さにまで抱き上げてくれた。
「・・・聖剣・・・・?」
なんと呼ぶべきか、困ったようなパパ上の声。
これはあれだ。
怪しい奴じゃありませんよ、ということだけは言っておかなきゃいけない気がする。
そう思った私は、パパ上に向かって愛想を振りまいて挨拶をすることにした。
うん、はじめまして、とかこんにちは、とか無難に危険じゃないアピールをしておいたほうがいいと思う。だってみんな、武器、持ってるし。
私は忘れていた。
なんとなく、心と体の精神年齢があっていないこと、気づいていたはずなのに。
にこっと笑って両手を挙げて挨拶しようした、かわいらしい口から出てきた言葉。
「パパ上、だっこ。」
ちがーーーーーーーーーーーーう!!!




