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告発文書

地に背き天空に存在する異教の都。


しかし、天にあろうが地にあろうが、街において噂話というものが滅びることはないらしい。

「ネル神官でしょ?有名よー!」

水の4区商店街の薬草店は本日もきゃあきゃあと賑やかに。

「あのお年で、娘みたいな年の奥様がいらっしゃるのよぉ!」

「奥様の押しかけ婚だって聞いたわ!」

「やだぁ隅に置けない!」


「ほんとうですか?!びっくり!」

リインナは両手で頬をおおって、初々しいふうに驚いて見せたが内心

(えええ……)

さすがに引いた。


彼女が知る情報は、ノスコンの子の代理母になったのが「黒目黒髪の夫婦」だったこと。

地竜神官ネルが黒目黒髪でも年齢は50代である。しかし妻が娘の年ほど若いとなると話がかわる。

しかしまだまだだ。まだ情報が足りない。

「お子様もいらっしゃるんですか?」

「まだ小さかったんじゃなかったかしら?」

「うわあお盛ん」

そのうちお客様の一人がぴしりとリインナに言った。

「リインナちゃんダメ。女っ気無し仕事一筋風でも、いい男がフリーとかそういう現実ないんだから」

「……うふふっ!」

鍛え上げた営業スマイルでとりあえず誤魔化す。

その脳裏に(なら)と(でも)、(さすがに)(ならば)がぐずりぐずりと渦を巻く。

そんな気持ちがまとまらないうちに

「賑やかですね、こんにちは!」

軽やかにドアチャイムを鳴らしたのは青年会のブロンスだ。チラシと回覧板を両手に抱えている。

「これ水の4区の分ね、いつものところに置いとくよ。麗しのリインナの店番にあたるなんてラッキーだな」

黒縁眼鏡の奥で空色の瞳がほがらかな好青年の登場に

「あらー!お似合いじゃない!」

奥様が歓声をあげた。

「リインナちゃん!むしろこういう!こういう子がいいの!真面目に働いてて社交的で顔だって悪くない!優良物件よ!」

「ふふふふ」

完璧に微笑んでみせながら心の中はなんとも苦い。

ブロンスは優良物件呼ばわりされても仕方ないくらいの優等生だ。おまけにいつもリインナに好意を見せている。

「からかわないでくださいよ奥さん、僕がリインナのファン達に袋叩きにされちゃいます」

加えて謙虚で賢明。

「抜け駆けなんてしたら彼ら凶暴ですよ。ノスコンの二の舞にはなりたくないです」

ノスコン・ダークを闇討ちしたのはリインナの恋敵集団というのが最近の町の噂の定番である。

「あはは……」

はじめてそれを聞いた時はさすがのリインナも仮面が欠けた。馬鹿従兄弟のせいで自分の婚期に影響が出たら、もうどうしてくれようか。


各種パンフレットの並べてある棚の端に

「リインナ……」

チラシを置こうとしたブロンスが

「これ何だろう?」

不自然な1枚を見つけて、ひらりと持ち上げた。

薬草屋でも商店街でも青年会でも、いや他のどこでも見たことがないような。線と格子はしかし無意味なものにも思えない。

「待って」

リインナは駆け寄ってのぞきこむ。

「待って、待って、待って……」

重なり合う四角。四角。長方形。正方形。太線。弧。円。加えて、細かい幾何学模様が整然と文字列のように並んで……

「文字!」

列をなぞったリインナの指が震えた。

書記官が王宮データベースを管理する時に使う特殊なコード。何度も繰り返される日常会話では使われない文法と同じリズムで刻まれている。

「文字があって……四角があって……??」

ブロンスが何気なく呟いた。

「……地図?」

その一言がリインナを雷霆のように打った。ブロンスの手からそれを奪い取ると

「おじさま!おじさま!」

叫びながら奥へ駆け込んだ。


残されたブロンスもお客様方もぽかんとなって、顔を見合わせた。

「なんでしょう」

「なんだろうね」

「まあ……」

早期退職したベテラン書記官は今日も台所あたりにいるのだろう。

「……杞憂じゃないかな?」

たしかにリインナもまだ、その可能性を疑っていた。


台所でこだわりキノコシチューの具合を見ていたジェノ・ダークは、突然姪に謎の書類を渡され、記号は書記官のコードでこれは文章なのだという説明を嵐のように受ける羽目になった。

「たしかに一致はしている。だとしたらこれが……」

勉強中のリインナにはかなわない早さで、なんでもないようにするすると暗号は解かれてしまう。

「そして、この書のタイトルはこの位置のこれになる」

右上の整列を指さして、元書記官はこう言った。


『告発文』


<続>

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