黒目黒髪の夫婦
白い空間で巫女は語る。
「………殺さねば」
言葉はまるで途切れ途切れ。
「……プロマ……」
若く可憐な母親の顔をした彼女の言葉は、時折あんまり古めかしくて。
「……疾く……来たる……」
少年が全部を理解するのには難しすぎた。
天空神であろうとも、少年はたった3歳でしかなかったのである。
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「ないわー!!」
オリィは大げさに万歳してみせた。
「ノスコンハイブリッドとかないわー!ニンゲン父ちゃん母ちゃんからできてんのを、父ちゃん母ちゃん母ちゃん母ちゃんのノスコンしかないノスコンの濃いノスコンなんて!老人会で語り継がれる子供の頃からかわいげのなさで有名なこいつの、さらに濃縮されたかわいげない子供時代を背負う少女とかかなしくてかなしくて、オリィちゃん美少女だからどんな辛いときも鏡を見てにっこりスマイルすれば立ち直れたのに!なんで老人会はわざわざそんな不幸な少女を」
ここまで一息。なぜかノスコンに娘がいたことになっているが、かの存在はノスコンに「お前が父で、お前の父だ」と名乗ったわけでおそらく男子だ。
「居場所はこれからリインナさんが王宮データベースからハッキングして突き止めるとして」
「ごめんね、書記官ってそういう技術じゃなくて」
リインナはさすがに苦笑した。
「王宮データベースの管理は書記官の仕事だけれども、内容を自由に閲覧できるわけじゃないの。行方不明のノスのお母様の住所だってデータベース内にはあるけれど、家族が閲覧希望をしないかぎり警察も勝手に見られない。まして『神官権限』関連なんて書記官は渡された暗号化データをそのまま入力するだけよ」
「それに」
大人しいウィリィが珍しく口をはさんだ。
「家族が届け出してなければ、そもそもデータベースにデータは無いよ」
違法売春地域でウィリィを出産した母親は出生届を出していなかった。拾われたときのウィリィには戸籍もなくて、誕生日すら長老マルクが適当に決めたものだ。
「家族……」
リインナは美しい眉をしかめた。
「俺は家族に殺されかけたんだが?」
ノスコンが挙手して主張したが
「子供は生まれたけれど『ノスコンの子』は生まれていない」
リインナの答えは謎のようで、従兄弟を大いに戸惑わせた。
「長老会が用意したのはノスコンの試験管ベビー。それを産むためには『代理母』が必要だった」
「あっ……」
オリィは失念していた。展開があんまり医療漫画だったので人工子宮くらい当然あると思ってた。さすがにそれは天空都市でもSFがすぎる。
「黒目黒髪の健康なご夫妻で、産まれた子供は黒目黒髪だったのよ。だからご夫妻はこれは自分たちの実子に間違いないと主張されたの。そしてそれが通った。ノスはその子の父親とは認められてない。『長老会の失敗』というのはそれよ」
人道的に相当ブラックなことをグレーだグレーだと決行した老学者達たちが、赤子を授かった愛し合う若夫婦というまばゆいばかりのホワイトに勝てるわけなどなかったのだ。
「魔術師は知識のけもの、神官は魔術を進歩させる狂人、なんて言うけど結局、良心、道理、常識といったものには勝てないものよ。もし負かせてしまったら天空都市だって墜落するわ」
秩序の最大有力者こそ基盤に亀裂を入れるようなことをしたら終了だ。
「黒目黒髪……」
天空神を名乗る幼児に一致する。そしてノスコン・ダークの父親とも。
「書記官見習いせんせー!」
オリィが元気よく手を上げた。
「なんか、ノスコンにめちゃくちゃ苦労させられて、ぶっ殺したいくらいは思ったろうなっていう、黒目黒髪の顔色わるいおじさんに心当たりがあるんですが……」
「なぜかしら、複数人いるような気もするわ」
「特に物理的に近いところに、たとえばこの病院内にいるような……」
「それって命の恩人じゃない?」
「そこは職業上のプライドが許さなかったとか、手を抜いたら周囲に見破られるとかいう……」
オリィはふざけてはいなかった。リインナも「まさかね」とは言わなかった。
「だとしたら『神官権限』どころか」
「現役最高有力者がラスボスだね」
<続>




