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雑魚の逆襲

その懐に怪物を抱く、天を行く魔神の都にて。


「……それで……ずっと……黙って……」

10年前たしかに出会っていたノスコンに、『神官権限』ゆえにオリィ・ザッテは初対面を装って

「ううん?ガチで忘れてた」

いたわけではなかった。

「だってあのとき3歳だよ?しかも手応えゼロの1回会った雑魚のこととか、記憶に残るわけなかったよね」

「雑魚!?」

目玉をひん剥くノスコンをスルーしてリインナが会話に割って入った。

「じゃあオリィは魔力値を私達に偽っていたの?!」

「残念ながら魔力値88はオリィちゃん13歳の現実なんだ」

オリィはそっと魔力補助のサークレットを外した。愛らしい黒い巻き毛をつまめば、年頃の少女には残酷な傷跡があらわれる。


「『竜毒』。」

薬学を学んだリインナには馴染んだ単語だ。前世代で天空都市の移動手段だった飛竜の、体液に含まれる毒素である。

「うち『竜飼い』だったんだ。3歳のとき家で飛竜飼ってたの。その爪の先がちょこっと飛んできて、オリィちゃんの体がスポーンとふっとんだのよ」

他人事のように茶化して言った。話を聞くだけでも痛そうで、それはもう他人事のように話さなくては耐えられないだろう。

「怪我して熱出て、起きれるようになった時に、なんかもう、魔力値が50とか60とかいうわけわからない事態でさ」

バルスドーラにおいて魔法、四精霊の使役は、水を出す、暖める、固定する、乾燥するといったライフラインそのものだ。高い魔力でなにも考えずそれらを使えていた者が、突然それを失う苦しみはノスコンにも覚えがある。

(だから大祭の病院の時、俺よりずっと動揺してたのか……)

それでも現在88ということは、よほどリハビリを頑張ったのだろう。

「人を怪我させた竜とか〆られるんだけど、うち親、竜つれて逃げたよね。まあ子供を愛せない親とか普通にいるし」

達観した表情でさらりと吐く。ノスコンの母は逃げていったし、ウィリィの母は帰ってこなかった。

あんまり淡々と話すので、リインナは居心地の悪さを感じた。この4人の中で両親の愛に包まれていたのは自分ひとりだけだなんて、そんな現実はあんまりじゃないか。

「でもこれのお陰で『第三世代』の子供達の魔力を下げてたのが『竜毒』だっていうことがわかったわけ。カーゴがどんどん普及して、コスパ悪い飛竜が減ってったのが『第三世代』と関連してる可能性とかもね。あたしは帰る家もないしリハビリもしたかったから、そのままじーさんの家に住み込んだわけ」

さくさく話しながら、けれど鉛筆の先が震えていた。それがするりと動き加えた記述は


◆7年前 ロードくん12歳で亡くなる


知らない名前に

「……同期。」

オリィの声がちょっと湿った。

「一番手強くて、一番美少年で、一番やさしかったお兄ちゃん。7年前で12歳。あたし6歳。生きてたら19歳。ノスコンの5つ下か。1ダースいた同期は全員……魔力が落ちたか、死んじゃった」

続けて二重丸をつけた『第三世代』の下に書き連ねていった。


◆遺伝は関係ある

◆遺伝病と関連し乳幼児生存率が低い

◆幼児期から魔力測定機でErrorが出るほど高い魔力値

◆年齢と共に魔力値が下がり落ち着く例が多い

◆魔力値が下がる原因のひとつは竜毒

◆子供時代の十分な健康管理により高い魔力値を保つことが可能

◆高い魔力値のまま成人した例はない


「おい」

最後のメモにノスコンが物申したのでオリィは溜息をついた。

「まっったくノスコンは馬鹿だなあ!」

生意気にニヤニヤ笑う表情がいつものオリィに戻っていて、貶されながらノスコンは安堵した。

「いい?」

◆年齢と共に魔力値が下がり

メモのところに二重線を引いてきっぱりと。

「ノスコン・ダークは、『第三世代』としては既に劣化していたんだよ」

第三世代の本来の魔力値は200程度で測れない。

「あんたが発見された時の魔力値は測れなかった。測定できるようになったのがやっと11歳の時。その後魔力値が落ちなかったのは長老会の研究のたまものだ。しかしそれ以前に相当魔力が下がってた。だからこそ生き延びたのかもしれないレアケースだ。ノスコンは『第三世代』としてはなりそこない。バルスドーラ最強とか言われても、キングオブ雑魚アンド雑魚っていうのが事実だよ」

だから

「10年だ」

因縁の戦いの日。オリィの栄光の最後の日々。

「あたしが脱落した後も長老会は10年間、研究をすすめていた。完成された『第三世代』がいるのかもしれない。『神官権限』によって市民の目から秘匿された状態でだ」


それが天空神アグマートを名乗る幼子の正体であれば。

「あたしたちは相当なヤツに喧嘩を売ろうとしてる」

オリィは不敵に笑った。かつて倍以上の魔力値を持つノスコンに土をつけた少女は

「もちろん勝つよ」

やはり折れるつもりなど微塵もないのだった。


<続>

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