怪物の価値
いと高き魔術師の王国、バルスドーラで
自分どころか周囲すらもてあます魔力にふりまわされて
「……結局、何もできない」
ノスコン・ダークは、とぼとぼと一人帰路にいた。
都市外周部の魔術工房から、違法売春がくすぶる通り。違法といっても体を酷使して天空都市の基礎を支える石工たちにとっては、命の洗濯場としてなくてはならない区画だ。魔術都市の必要悪としてお目こぼしをもらっている。
その通りの「母の帰らない家」。
バルスドーラが見て見ぬふりをした小さな少女が飢えて泣いていた場所。
ノスコンはあれから、外周部に来た時はここを確かめてから帰るようにしている。
(またウィリィが戻ってるかもしれないし……)
迎えにくるのがオリィ一人というのも寂しいだろう。それ以外にも自分を見ている人間がいることを知ってほしくて、甘草の飴を一袋置いていく。次に通る時はきまってなくなっていて、誰が持っていくのかもわからないけれど。
なにかと苛立っていた昔を思う。心にがっちり蓋がされていたのではしばしば爆発するのは当然だろう。
(母親が帰ってこないのは、俺だけじゃなかったんだ)
それを知った後の気楽さと悲しさは、青年のあり方を少しだけ変えていた。
ここに立ち寄らずにはいられないのも、ウィリィへの思いやりだけではなくて、たぶんそれを反芻するのに必要なのだ。
「イヨーゥ色男!彼女と上手くやってるゥ?」
陽気にいつもの美人局コンビが声をかけてきた。
「上手く……?」
大真面目に首をひねるしかないノスコンに
「あの娘がずうっと可哀想なのは知ってたけどさあ」
「誰も助けてやれるわけじゃないし」
「なんならノウハウを教えてやろう。授業料は大負けに負けておく」
「まあそれとは別に、あんたがこの通りを歩くのは大歓迎なんだ」
「バルスドーラ随一の『白い幽霊』がさあ!」
2人は楽しげにまくしたてる。
「あんたのシマが移ったって大慌てで逃げ出した奴らがさ」
「バルスドーラに大穴開ける男に威勢のいいこと言えるわけなし」
「治安がよくなったことこの上ない」
「なんなら2、3日に1回くらい通ってくれ、用心棒」
こわいおにーさんがノスコンに握らせて、きれーなおねーさんは投げキッスして去っていった。
……握らされたものを確かめる。
コイン。
つまり天空都市バルスドーラの流通貨幣。
「………」
ノスコン・ダークはしばし呆けた。
(……歩いただけで?)
2人の言葉を思い出す。
逃げ出した奴ら。治安がよくなった。用心棒。
「………」
白い怪物は白い怪物であっただけだ。有名で目立つ危険物が、歩く通りを変えただけで金銭的価値が生まれる。
つまり。
口角が不器用に上がるのを止められない。
それはノスコン・ダーク24歳が、生まれて初めて得た「報酬」。
何もできない長老会のモルモットが、はじめて認められた「仕事」。「価値」の輝きだったのだ。
<続>
リハビリに小説書こ→メンタルなら小説書きはリハビリになるはず→メンタルじゃなくて体力が逝ってたかよ!(ペン投げて食事療法開始)からの、それでもどーしても書きたくなったから書いた次第。違う書きたかったのは次回話です




