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白い怪物の就活

「ぶ は は はははは!!!がはははははは!!ざまあばははははははは!!ぶ ざ ま ぎゃーーはっはっはっはっへえへえへえへえがはははははははははは!!!」

「笑 い す ぎ!!」

ノスコン・ダークは地団駄ふんで顔真っ赤だ。話す相手を間違えた。


「雇い先を探す」

24歳実質無職が実家でついに呟いた。大真面目だった。

問題は、そこが商店街の店頭であり。

たまたま客がおり。

その客が天敵オリィ・ザッテだったということだ。

「ノスコンが就職とか、無理!無理ー!乗った人間がもれなく無免許になるブルドーザーとか、使いたい奴がバルスドーラにいるもんか!大祭1日で病院と王宮をダブルでぶっ壊した歩く天災が!人間社会で!就職!!がははははははははは!!」

オリィは腹をよじって大笑いだ。

「いいわねえ」

そんな2人をまったり眺める商店街の麗しき花。

「あなたたちそうやって2人でいると、なんかすごくイキイキしてる」

「俺はバカにされてるんだが?!」

ノスコンの激怒を

「バカでしょ、あなたは」

リインナは愛情深い正論で折り返した。


「物心ついた頃からトラブルメーカーで、長老会のモルモットで、魔力にものをいわせて勉強しないで、ひねくれた人嫌いに成長して、闇夜に引きこもって24年、今から何をどうやれば、あなたが他所様のお役に立てる人間になれるの?」


あまりにも容赦がない従姉妹の言葉。

これが子供の頃から勝手知ったる、生意気で外面ばかりがいいリインナだからこそノスコンはギリギリ耐えられた。他の人だったら憤死してただろう。水の4区商店街は一瞬で瓦礫になったはずだ。

「リインナさん……」

あまりの無慈悲さに、オリィの爆笑すら止まってしまった。

「いやほれ……こいつ無駄にガタイはいいから……単純肉体労働とかなら……まだ……」

ノスコンを嘲笑うのがライフワークといっていいオリィが、まさか言葉を選んで弁護する日が来ようとは。

「社会勉強が足りない」

リインナは美しいおもてですっぱりこき下ろした。


しかし、そうしながらもリインナの脳裏にはある一人の労働者のことが浮かび、居座ってしまっていた。


彼も、長老会ではないが学者の助手として青春を費やした。

ある日その職を失い、家族を養い守るために、25歳で工房に転がり込んだのだと言った。

賢明で面倒見のいい彼だ。たぶんノスコンの手助けもしてくれるだろう。


リインナだって、根っこではこの馬鹿従兄弟を愛してる。

ようやく自分の人生を切り開こうと成長した姿は嬉しく、応援したくないわけはない。

「……もしかしたら」


ゼムさんなら知恵を貸してくれる。


そう零したリインナの瞳は窓の向こうを見つめている。

「ゼム兄貴に?そりゃ工房のベテランだし何か知ってそうだけど、こんな馬鹿の世話までさせるのはオリィちゃん気が引けるわ」

オリィの舌の滑りが復活する。

「バカバカ言うな!」

ノスコンのツッコミも復活する。

だけどリインナの視線が合わない。奇妙な居心地の悪さに2人は無言のまま連れだって店を出た。


===


「すまんな、他を当たってくれ」

結果だけ言えばゼムは断った。

ノスコン達もゼム・セラレンススの過去は知っている。医学教授の母の助手だったが、母の死後25歳で石工になったという。

「兄貴みたいに出来はよくないのはわかってるけどさ。24歳体一つからできる仕事ってオリィちゃん思いつかなくてさ」

「確かにオレもそうだったけど、石工は止めろ」

ゼムはノスコンの背に手を回してなだめた。

「お前は生活が苦しいわけじゃないし、家族も達者なんだ。石工みたいな長生きできない仕事を選ぶ必要はない」


『石工は長生きしない』

それは天空都市の常識のひとつだ。

肉体労働で歩合のいい石工は太く短く生きるのが粋とされ、喧嘩、深酒、薬物乱用などで実際短命だ。「石工に惚れる」はバッドエンドのロマンスの定番だ。石工は一人の女に満足しない。家庭を築かず遊び女をとっかえひっかえし、病気をもらってそれでまた早死する。

(それでも)

自分でもなれる職かもしれないと思っていたノスコンはわかりやすく気落ちした。

「……俺は何にもなれない」

無口な男はぼそりと零した。

「そんなことはないさ」

ゼムはノスコンの背をぽんぽんと叩いた。

「何かになれる、とか、なる、じゃないんだ。お前だから『出来る』。そして誰かがそれを必要にしてるのさ」

父というより歳のはなれた兄のような熟練の石工の言葉は、ノスコンにとって魔法王神官の呪文詠唱より謎めいて、もはや神秘的ですらあったのだ。


<続>

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