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天空神(アグマート)の生け贄

<前章までのあらすじ>

魔術師住まう天空都市バルスドーラ。たまたまフェイニ・アグマータクスト王子(12)そっくりで影武者チャレンジすることになったオリィ・ザッテ(13)は孤立無援で王族の命を狙う殺人者を迎え撃つ。一手早い作戦で命を拾うオリィだが、助けに来たフェイニらに飛竜の鉤爪が迫る。それを撃ち落としたのは潜伏警官ティル・エージェだった。400年前革命王に倒された旧貴族は予知能力により「バルスドーラに王子が2人いると滅ぶ」と遺しており、それを信じて王族を消そうとする「王倒派」、飛竜はオリィの家で飼っていたもので、乗り手は父親だった。かつてすっかり変わってしまったオリィの世界。過去と決別すると誓っていたオリィは逮捕された父との面会を断り前を向いた。

天空都市の、未だ知られざる玉座にて。



黒髪の男がひれ伏して曰く。

「いと高きアグマートの御名は今こそよみがえりたり」

玉座の者曰く。

「みこ、いまだ、いわず。」


玉座の者は幾度も、ベールをかぶった女性と会っている。

顔は見えないが、玉座の者は自分の母親に似ていると思っている。

若く、可憐で、はかなげで、人形のような。


「トリマプロペル。あなたはまだ完成されていない」


鈴のような声で告げる。


「竜毒を避け7年待て」


天空都市バルスドーラで魔術師は生まれつきの魔術の才能という天秤にかけられる。

かつて10歳健診で行われるならいだった魔力値測定。魔術師の子が奴隷として値段をつけられるのは10歳と古くから決まっていたからだ。

16年前薬草屋の8歳児が杖なし無詠唱で神殿前広場に大穴を開けたりするまでは。それから魔力値測定は出生後からが当然になった。「だいたいノスコン・ダークのせい」という魔術都市の便利な言葉はそのあたりが発祥だ。


(駄目だ。あと1年のうちに)

成さなければ、彼に後は無い。


「恐れ多くも天より来たりて星を降らす方。神の復活には儀式も贄もなるほど必要でしょう」

ひれ伏す男は神官のようにかしこみ、かしこみ

「ならば『プロマ』を贄としてこそ、アグマートの御蔵は定まれる」


かつて巫女にプロマと呼ばれた存在がいた。古代語で「一番目」という意味である。

はじめであったゆえに完成されることなく見捨てられ、長老会の小鼠になりさがるしかなかった気の毒なプロマ。その目立つ存在はそれなりに拾われて、続く存在もいくらか拾われてきたが、実際「生存」「完成」の両方を見るためにはトリマプロペルまで待つしかなかった。


彼は、ノスコン・ダークを生け贄にして、天空神アグマートを大地に降ろさんとするものである。


===


「ひゃーーーくしょい!!」

昼下がりの長老会義堂、ノスコン・ダークがどでかいくしゃみをひとつ。

いつものように呼び出しをくらったついでに力仕事を任されている。

(俺の人生、ずっとこんなのかな……)

職業欄に「長老会助手」と書けばなかなか立派だが、子供の頃から呼び出されてはそのまま雑用させられつづけてる実質無職である。

「やあやあ君がダーク君だね!」

いつものハゲと白髪の集いに、まだごま塩な新人がやってきた。

「あの……どちらさま?」

「あ、僕ね、風竜神官」

突然の魔術都市最高権力者「四魔法王神官」。

「いいじゃない、次の選挙出たら」

「……は?」

たたみかけるように突然の推薦。

「任期4年は僕がバックアップするから大丈夫さ!終わったら君も引退神官として長老会に永久就職だ!」

えいきゅうしゅうしょく。

ハイテンションじじいの群れに永久就職。

こんな嬉しくない永久就職そうそうない。

「あー、こっちこっち!すまんねダーク君、彼、休日呑兵衛なだけが欠点でね!仕事は真面目なんだがねえ」

ごま塩最高権力者は速やかに引退最高権力者ハゲに回収されて去っていった。

「まじ……???」

呆然となりながら長年長老会のモルモットやらされていた青年は思った。


多分マジだ。


長老会のメンツがイカれてるのは子供の頃から知っている。

「就職活動せねば……!」

24歳無職、ようやく人生の危機に目覚めた。

知られざる玉座にて、自分が生け贄にされかけているなんて一欠片も知らないまま、である。


<続>

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