星屑少女は前を向いて
天空都市の真白い皿が朝陽に満たされていく。
オリィ・ザッテはもちろん不機嫌だ。
(つまり。ノスコンの親父も警察も、大祭が過ぎてもずっと倒王派の尻尾を狙った作戦中で)
オリィは巻き込まれた。というか、まんまと敵をおびき出す囮にされていた。
(まあ、罠をかけるなら味方も騙すのは上策だけどさ?)
何も知らないまま、暗殺に備えてあれこれ仕込んでいた自分の行動はなんだったのだ。
「無様ー!」
思わず口から出て
「ごめんなさいね~☆」
テンション高い侍女さん、否、潜伏警官ティル・エージェにからりと笑われた。
「あなた頭いいわ。敵中にひとりぼっちって状況をすぐ飲み込んで、的確な行動をした方ね」
「イヤミに聞こえるよぉ!!そもそも『冥土の土産』とかなんだよお!!」
「もちろん、その場のノリ。」
ティルは中央区で人気の演劇『必殺仕立人』主人公のキメポーズで答えた。
「そんなポーズ原作に無いんだよぉ!!!!」
舞台化にあたって原作からシナリオ改変されたことがオリィの気に障りまくりで、少女の心は千々に乱れた。
自分は無様だし、舞台化は失敗だし、おまけにノスコン・ダークは来ないし。
「あいつこんなに馬鹿だったか?!うん馬鹿だな!『一人で来るな』とは伝えたけどまさか『一人だけ来ない』とか、言葉通じないにも程があるよ!!」
巻き毛をもじゃもじゃかき混ぜながら、この場に居ない奴に八つ当たりした。
魔術都市バルスドーラには「だいたいノスコン・ダークのせい」という便利な言葉がある。実際それで説明されることが少なくないのが規格外能力者のかなしさである。今のオリィこそ全力ですべてをノスコン・ダークのせいにしたかった。
そう思うのは
「オリィ・ザッテ」
ティルが声を低くした。
「『面会』はできるわ」
耳に入れたくない単語。
オリィがわからないわけがなかった。
シャトルやカーゴといった魔法車両に代わって天空都市から消えていった古い存在。飛竜と竜乗り。
おそらくバルスドーラ最後の竜乗り。その年齢がオリィの記憶とカチリと合致する。
少女の指が古傷に触れる。あのとき走り抜けた恐怖。灰色の鉤爪。
かつて天空都市に暮らしていた飛竜は、人間との共存を強いられる以上、人を傷つける個体は決して許されなかった。
「グライも、今度こそ処分されるか」
それは少女と一緒に暮らしていた飛竜の名前。
その灰色の鉤爪がちょっと触れて、あたしのからだは吹っ飛んだ。
けものの爪の毒が熱病になって、死にかけたあたしがようやく目覚めたとき。
オリィ・ザッテの世界はすっかり変わってしまっていた。
(やっぱりお父さんは、あたしよりグライが好きだったんだ)
変わってしまった世界で、それでもオリィは前を向こうと誓ったのだ。
「知らない人だよ」
あっさりと警官に返事した。
「そう……」
ティルは少女の後ろ姿にそっと付け足した。
「気が変わったら」
「ないよ」
そっぽを向いたまま、オリィは言った。
「そんなの、あたしらしく、ない。」
かなしみを振り返るなんて、オリィ・ザッテには似合わないのだ。
それはそれとして
「しっかしノスコンはほんっと馬鹿だなっ!!」
オリィは全力で相棒に八つ当たりすることで気分を変えた。
<続>
これにて影武者編終了です。あざっす!キャラが勝手に動いた勢いでした。
次章と中ボスの準備はできてますの。




