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2人の王子・真相

天上の都の中央に建つ、王宮の塔にも夕闇は来る。



「王子様、お疲れ様でした~☆」

朝から晩まで途切れることなくテンションの高い侍女さんに、ようやく寝室へ迎え入れられて影武者オリィは大きな息をはいた。

「マジ……疲れたわ……」

その腕には鈍器になりそうな分厚い歴史書。『バルスドーラ史~革命戦争後編・資料~』があった。

「オリィちゃん歴オタだからね、こういうレア書読むくらいご褒美なくちゃモトがとれないよ」

天空都市最強すらへこませるこの頭脳明晰少女は若干13歳にして革命王x演説公のBL二次創作をたしなんでいる。

「原典一度読みたかったんよ……!!」

さすがにこのクラスのガチ資料は下町では読む機会がない。王宮旧図書館様万々歳である。

「すごい!勉強家なのね~!」

侍女さんは感心しながらオリィから杖を受け取り、サングラスを外してくれる。

「革x演界隈、垂涎の一級資料だもーん!」

「おませさんだ」

ころころ笑いながら上着を脱がせ、魔力補助のサークレットをはずす。

オリィが普段つけっぱなしなサークレットの下はやや毛が薄い。サークレットハゲといわれようがオリィには譲れない美学がある。


王子の鏡台に座るオリィの髪を、侍女が丁寧にブラッシングしてくれる。

「これ、ちょっとかわいそうね」

巻き毛と巻き毛に隠れるサークレットハゲのさらに隠れたところに、小さいけれど傷痕がある。気の毒げにやさしい指が触れた。

「目立たないけど他人には見せたくないところ。周りぜんぶハゲたって隠すよ」

ちいさな乙女の矜持を、侍女は優しくほほえんで受け止めた。

「明日は別なデザイン探してみるわね。王子様のサークレットなんだから、いっそ、うんと素敵なのを職人にお仕立てしてもらいましょうよ!」

「明日、明日ねえ……」


警察署へ行ったロワ王子は数日は帰らないだろう。檻に入れられたのならむしろ防御壁だ。彼の命が狙われない期間、フェイニ王子に扮しているオリィの方がたやすいターゲットになりうる。

「王様とディナーとかね、本当はもっと味わって美味しく食べたかったよね。でも王子毒殺の可能性とかあったでしょ」

「そんなのはありえません!」

非日常に浮かれっぱなし侍女さん、夜のターンは名探偵気分だ。

「たしかに15年前の事件はたいへんでした。しかしあれから王宮の警備はずっと厳しくなり、食材だってしっかりチェックされてます。いざって時も侍医が準備万端。そもそもその状態で王子を毒殺すれば『犯人はこの中にいる!』展開です!犯人は逃げられません!」

華麗にキメポーズをとってのたまう。

「そうね。だからヤバかった」

オリィは冷静に述べる。

「この状態で殺せるのは『王子様じゃなくて影武者』だ」


暗殺者が狙っているのがロワ王子でもフェイニ王子でもなく、影武者オリィ・ザッテだという可能性において。

「その人が本当に殺したかったのが、影武者の方で、王子様じゃないとすれば」

15年前3歳のロワ王子が命拾いして逃れたように。

「あたしを殺して『フェイニ王子が死んだ!』ってことにすれば、本物のフェイニ王子は隠れて逃げられる」

そう、犯人はこの中にいる。

「一番そうなってほしいのは、フェイニ王子の父・バルスドーラ王」


しかしディナーでの毒殺はなく、今一日が無事終わろうとしていて。

「動機があるのはわかったけれど」

名探偵侍女さんが突っ込む。

「フェイニ王子が死ななきゃいけない理由がない」

「それが一番のナゾ」

御前試合の大立ち回り。そして15年前の王太子一家崩御事件。

「誰かがバルスドーラ王子、あるいは王家全員の命を狙ってる」

オリィ・ザッテはその『真の理由』を失念しているという確信があった。

どこで聞いたかどこで読んだかどうしても思い出せないが

(でもどこかで知った)

この聡明な少女は大人向けな古典歴史小説を同年代の十倍は読んでいる。

「……それは」

侍女は首をひねった。

「フェイニ王子は命を狙われている……王様は王子を逃がしたい……そのスキを作るために影武者を本人と偽って殺そうとしている……としたら」

やさしい指がすっと動いて。


「……こういうのはどうかしら?」

左手はやわらかく傷のあるオリィの頭を抱いて、右手には鋭い短剣。

「あなたは魔力があまり高くないって聞いてるわ」

鏡台に映り込む笑顔は暖かなまま

「杖はあちらに置いた。魔力補助のサークレットも外している……呪文詠唱の暇はなく、無詠唱呪文の威力はいわずもがな。この状態で首に刃が引かれるより早く逃げられるかしら?」

侍女さんが短剣をオリィの首筋へ押し当てている。


無言になるオリィへ彼女は語る。

「冥土の土産に教えてあげるわね。王子様の命が狙われる理由は、あなたがさっき持ち込んだ本の中にあるの。革命王が貴族のリーダーを打倒した時、彼は呪いの言葉を吐いたのよ。


『ああ口惜しや口惜しや

 魔術師ごときが王になる

 いと高きアグマートの御名を称えるものはいなくなった

 赤き星の王子 王とならば民滅び国残り

 青き星の王子 王とならば国滅び民残る』


……敗者の呪詛なんて一般人の心には残らなかったけどね」


オリィは

「……なるほど」

生意気げに口角をあげてみせた。

「でもただの呪いの言葉じゃないんだ。カリスマだった革命王は新時代を切り開いたけれど子孫はそうはいかなかった。旧貴族に媚びて王家の結婚相手はほとんど旧貴族だった。バルスドーラ王家はそういう旧貴族の血を濃く引く一族で、そういう一族にしかない能力があったんだ。ロワがそんな旧貴族の先祖返りだって、よく観察してたらすぐわかった!」

魔術対決において必ず相手の魔術を相殺する。王太子一家崩御事件直前に王宮から逃げ出す。謁見の階段でノスコンの詠唱付き魔法の直撃を避ける。

「旧 貴 族 に は 予 知 能 力 が あ っ た。無視できない予言は一部の人の心に残った。バルスドーラで2人の王子が争えばどちらが勝ってもバルスドーラは終わる。ならばこうだ。『バルスドーラに王子は2人いてはいけない』『王家が消えればバルスドーラは滅びない』!」


ロワが帰還してバルスドーラに王子が2人になった。予言を知る者は王子の命を狙うだろう。

「革命王直系子孫のバルスドーラ王がこの予言を知らないわけはない。だけど2人の王子のどちらも殺せない……赤の他人の影武者なら殺せる、そのスキに実の息子をロワみたいに逃がす。そして影武者を殺す手段は」

侍女の短剣はよく研ぎ澄まされた本物だ。冗談なんかじゃない。

「こういう展開は考えてなかったかしら?」


「考えてたよぉ!!」


少女は元気いっぱいに答えた。途端、窓が割れ短剣が床へ飛んだ。

「そこまでです!フェイニ・アグマータクスト、ただいま王宮へ帰還いたしました!」

杖をふりかぶるフェイニ・バルスドーラ王子と、それを支えて夜風に乗るリインナ・グロースが王宮の窓の外にいた。


<続>

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