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魔術師(けもの)の愛

邪神のかいなに留まれる、罪の都バルスドーラ。



長老会。


バルスドーラの政治の頂点である四魔法王神官の引退者からなる集団。

現役神官ネルは語った。

「四魔法王神官とはバルスドーラの政治の頂点であり、魔術師としての頂点である」

「その素質とは、情報、および、情熱」

「大切なもののために全てを捨てられる情熱を併せ持つ者が、魔術を進歩させられる者として選ばれる」

現役を引退してもなお、バルスドーラを進歩させるために狂うことができる者達である。


王子フェイニは、ただ真っ直ぐに

「それは」

シンプルに言葉を述べた。

「不潔です」

責めるふうでも忌むふうでもない、曲がったことのない少年からの率直な意見。


「あなた……オリィではないのね」

はしばみの瞳を少し見張って、けれどリインナ・グロースは友人の前に「長老会の手先」として静かに立って語った。

「そういう感性は、いいわ。健全で」

水の商店街区の花の美しい微笑みはそのままで。

ウィリィはフェイニのようにもリインナのようにもなれなかった。この場で一番動揺しているのに、自分だけが己の意見を持てないでいる。

「ノスコン・ダークがバルスドーラでただ一人のイレギュラーな高魔力値を持つにあたって、その原因と、次世代にどのような影響を与えるかについて、長老会は大昔から研究していたのよ。ノスの生殖細胞は長老会で保管されてるし、従姉妹の私には子供の頃から縁談があった。でも無理じゃない生理的に!何が哀しくてあんな馬鹿従兄弟と結婚しなきゃならないのよ!」

リインナは言葉厳しく

「……子供の頃って、そう思うのよね」

しかし寂しそうにつぶやいた。


「長老会のコネって大きいのよね……神官選出も長老会が絡んでるくらいだし。読みたい本を読めないなんてことはなかったし、学びたいことを学べなかったこともなかった。高等学校を卒業しても、まだまだ私は知識に飢えていた……」

伏せぎみのあかがねの睫の奥で、静かに光る眼。

「けものとおなじ。知識を貪り食らわずにはいられないけもの。おじさまから書記官技術を学んでも、まだまだ足りない。『それ』を了解すれば魔法都市の前代未聞の最新の研究データが……誰より一番近いところで……手に入る。私はそれを好ましいと思うような、きたないおとな、魔術師になってしまったの」

魔術師けものの眼光をわかものにみせながら、けれどリインナは白い手をひらりと振った。

「でもノスは違う。馬鹿だから。子供の頃とおんなじに、無理だ不潔だって考えなしに言える。というかずっとそう言っていてほしいって私は願ってしまう。私みたいなきたないおとなになってほしくない。ノスはノスらしくずっと馬鹿でいてほしい。一つ屋根の下に乗り込んでおいてもう2年、どうしてもそう思ってしまうの。変よね」

言っちゃった、とリインナは子供のように舌を出してみせた。


「変……じゃないと思います」

ウィリィはおずおずと言葉を選んだ。

「リインナさんが……ノスコンをずっと見守ってて……それでノスコンにノスコンらしくいてほしいと思うのは……そういうのも『愛』だ、とボクは思います」

至極単純な単語に胸を打たれたようにリインナははっとして、それから柔らかく微笑んだ。

「……ありがとう。ウィリィ」

いつでも完璧な微笑をたたえることができる商店街の花が、いつも誰にでもは見せない類いのほほえみ。


ウィリィは自分が物知りではないと自覚しながらも、愛については知らないわけではないと思っている。貧しい母が小さいウィリィに与えたものが愛以外のなにものでもなかったことを信じている。そこから生まれる安定感がリインナの心を軽くした。

「3年前までは私もここに住むことは考えてなかったの」

だから全部、打ち明けてしまう。

「3年前、長老会はノスコンの生殖細胞とノスコンのお母さんの生殖細胞から、近親の試験管ベビーを作る計画を失敗したのよ」


<続>

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