秘匿王子、下町を行く
いと高き魔術師の都バルスドーラの、月長石の皿とよばれる市街部にて。
「もっと可愛い服を出してください」
「可 愛 い 服。」
王宮で隠すように育てられてきた12歳のフェイニ・アグマータクスト=バルスドーラ王子は瞳をきらめかせて宣った。
「オリィが私の影武者をしてくれている間、私はオリィの代りにならなくてはいけません。オリィは女の子なのだから可愛い服を着なくては」
外界に接することなくおよそ無菌培養されて育った王子様には穢れたきもちなどひとかけらもない。いたって大真面目である。
「オリィはアクティブな服が好きだから、そんなに可愛いのは持ってないよ……」
骨折した腕をかばいながら、さすがのウィリィ・リネンも苦笑する。
「これとかこれとか可愛くないですか?」
フェイニは軽々とクローゼットから2着ほど取り出して、鏡の前でくるくる回ってみせた。昨日会ったばかりの顔が似てるだけの女の子のクローゼットを漁るさまに微塵もためらいがない。大物である。
「……なんで同じ顔の男の子なのに、オリィより可愛い服が似合うんだろね?」
「なんでだろね?」
大量の派手派手眼鏡を両手と頭につけた長老マルクが弟子の部屋を訪れる。
「これね、わし発明の魔道具ね。瞳の色が違うのをごまかせる系をとりあえず全部」
「うわあ、これ可愛いですね!」
王子様は歓声をあげて瑠璃色の蜻蛉眼鏡を身につけた。なるほどかわいい。
「後はヘアスプレーで髪を黒くして……ウィリィ、一緒にスイーツを食べに行きましょう!町で噂のスイーツ!期間限定のやつぜんぶ!」
言い放つさまがまた可愛くて感覚が困惑する。
「王子様どこでそういう知識を?」
「ウィリィは……私と、お茶するのは嫌ですか?可愛いのはお嫌いですか……?」
しょぼくれるさまがまたいじらしくて
「わあん王子様だいすきぃ!!」
少女は天井に向けて叫びつけると、まもなく町へ飛び出した。
今日の今だけなら、午前のわずかな時間だけのポート近くの市だ。フルーツジュース飲んで、クリームをたっぷり使ったクレープをほおばる。保存がきく砂糖菓子はいつでも食べられる。中央区に行けばウィリィだってわくわくするような洒落たケーキのお店が何軒もあるが、シャトルに乗る暇が惜しい。知恵と知識を愛する魔術師達はアルコールよりも砂糖での酩酊を好む。歯が溶けそうなほど甘い菓子もあるが、どちらかといえば年寄り向けで、今時の若者には甘さ控えめが流行だ。これには湖上農園との交通手段が竜から飛鋼のカーゴに変化したことが大きい。
「なんでオリィと遊ぶより女の子してるんだろう今日のボク……」
普段の3倍を越えるスイーツの量に、ウィリィの脳が逃避をはじめた。そのウィリィの倍の量をぺろりとたいらげてフェイニは平然としている。
「ウィリィ、次は何を食べましょうか?」
笑顔でおっしゃる。やはり大物だ。
そんな王子様の声を遠くのもののように聞いて、ウィリィの脳は過剰な糖分のむしろ分解を望んでいる。めぐり、めぐって…
「あらいらっしゃい」
たどりついたのはノスコン・ダークの実家の薬草屋だった。最近はリインナがハーブティーのバリエーションを増やしたので二人掛けのミニテーブルが2組あり、甘さ控えめを求める若者の隠れスポットのひとつになっている。
たどりつく前ウィリィは
(これから行くところのリインナさんはオリィを知ってる。さすがに声聞いたら別人だってわかるよ。バレるとまずいってわけじゃないけど)
フェイニに語っていたし、フェイニも
(了解しました。友達をいつまで騙していられるかチャレンジですね)
よくわかってニコニコしていた。
かくして先日途中まで同行していたリインナだが、オリィが瓜二つの別人だなんて想像もしていなかったし、何より泣いた次の日の目元が気になる乙女。ちょっと視線をずらしながら
「ノスはいないわよ。叔父さまは寝てるわ。今まで働き過ぎだったもの、二、三日は家のベッドでゴロゴロしたいんじゃないかしら。おばあさまは通院の日ね」
どうでもないことをどうでもないように話して、淹れたてのカップを2人に差し出した。
「新ブレンド。感想聞きたいな」
薬草は古くからある知恵だが、魔術師達はその効き目が病院の薬に劣らないのを知っている。効果があれば副作用もある。だからリインナは高等学校で薬学を学んだ上で、ブレンドティーを開発している。
今日たまたま開発していたブレンドは昨日はずかしくも号泣したリインナの反省からくる、メンタルを落ち着けるものであったのだが、そこらへん乙女は話題にしない。
「……オリィ、あなた」
話題を避けたところで
「ノスと結婚しない?」
飛躍した。
ウィリィが咳き込んだ。オリィの顔した王子様は満面の笑顔だけでノーサンキューを表明してる。見事だ。
「ウィリィ大丈夫?!」
「大丈夫じゃないよ?!!?」
話題が唐突すぎた。独特の風味が呼吸器官に回って死にそうだ。
「私は割と本気なんだけどな……」
フェイニ王子は笑ってるだけなのに絶対拒否感が揺るがない。
「こ、これがロイヤルスマイル……つよい……」
ウィリィはもはや感心したし、何ならリインナだって感じいった。
「子供は私が産んであげるから。オリィは卵子提供してくれるだけで。そうすればノスだって泣き寝入りするしかない。それは、もう、ぜったい!」
たしかにバルスドーラ最凶のノスコン・ダークを泣き寝入りさせることができるのはオリィくらいしかいないだろうが。なんだったらこの王子様もそうなのかもしれないが。いつものオリィが着ない可愛い系の女装のうちからすらあふれ出る大物感がそうとうおかしい。
リインナが飛躍した上にぶっちゃけたのは、このオーラがなすゆえだったのかもしれない。
「実際ね、」
あかがね色のセミロングを揺らしてリインナ・グロースは告白する。
「長老会は私とノスの親近婚のデータが欲しいのよ」
<続>
ネタは天から降ってくるタイプです。インプットして、インプットして、インプットしていると、あるとき突然完成形動画で降ってくる。あとはそれを文章に変換していく作業ですので、体悪くする前はこの変換だけで、誤字確認含め30分で1話完成していたのです。
本日、バトルシーンのキモ降ったぁ!よっしゃああああああああ!!!って興奮のあまり部屋の対角線をダッシュの勢いが戻ってきたのですが、そのバトルシーンのキモまでまだ相当話を書いていなかったので、まずはこれだけで、がっつり時間かかっておりまする。




