戦力外の馬鹿
かつて天空都市の王が住まい、今もまだその子孫が残るバルスドーラの王城にて。
黒。空のさらに高いところの色。父王子よりその眼と髪を受け継いだ少年が、尊い人のような白い肌にあふれんばかりの若い血気をたちのぼらせて。
ロワ・アグマータテア王子が侍者をはべらせて朝の回廊を行くところを
「よっ兄弟」
もう一人の王子、フェイニ・アグマータクスト……に扮した影武者オリィ・ザッテが捕獲した。
「兄弟じゃねーよ」
ロワはいらつきながら声を潜めた。
「従兄弟だろ!」
「そういう細かいことはどーでもいいの」
無理矢理肩を組んで、回廊の窓から外を向かせる。
「まあ仲睦まじいこと!」
侍女がキラキラした目で2人の王子を見守っている。この人事情知ってるのにな?
「十五年ぶりに再会した従兄弟様ですからねえ…!」
事情を知らない侍者が睫を濡らす。十五年前フェイニ王子はまだ生まれていないんだがな?
ちらちらそちらを気にして、ロワが長い溜息をついた。
「王宮仕えってみんなこんなノホホンしてんのかよ……」
「王子様がそれを言うか」
「うるせえ、昨日はじめて王宮に来た王子様だよ」
その事ならばオリィも全く同じである。
「イエィ兄弟。ビギナー同士仲良くやろうぜ」
称号は王子様だが中身は元盗賊団の三下であるロワは、オリィにとって間違いなく味方にして損のない人間だった。
(馬鹿だしな、こいつ)
父を殺害したのが現バルスドーラ王だという有名なガセネタをすっかり信じ込んで、十五年ぶりに復活した御前試合に飛び込んだ阿呆、いやピュアボーイである。
「昨日王宮来たばっかりの戦力外の馬鹿だけど」
「おい何か言ったか」
「それより」
オリィは流れるように話題を変える。
「わかってんの?あたしもあんたも命を狙われる可能性があるって」
「知 る か!?!」
心底驚いて大声あげるのを
(戦力外の大馬鹿!!)
改めてオリィは頭を抱えた。
「あんた昨日まで自分が暗殺者だったつもりらしいけど。あんたをのこのこ泳がせて一網打尽にしたい連中が相当いたのよ?」
顔を窓の外に向けたまま告げた。
窓の下には昨日の大立ち回りの挙げ句全壊した謁見の階段がある。
「ノスコン・ダークか?」
この惨状はたしかに天空都市のブルドーザーである彼の仕業だが。
「あれはただの重機」
友人を冷たく称しつつ
「よく五体満足だったね?うちのウィリィちゃん骨折したのよ?」
なんとなく問えば
「うん避けた」
指さす先の崩れ方が一様ではないのが見てとれた。なるほど王宮の内側から格子ごしに大魔法を叩きつけたせいで、格子の陰だったところは無事だったようだ。
朝も早いのに相当な人数が行き来している。なお勤勉な労働者でも勤王精神たぎるボランティアでもない。「王宮の瓦礫とか超レアじゃん!」「下層から新遺構が発見されるかも?!」という知的好奇心で生きてる魔法都市の野次馬である。
ロワはよくわからんがという顔のまま
「俺は心配無いな。これから警察行くから」
昨日まで暗殺者の方だった少年はケロリとのたまう。たしかに警察署で王子暗殺はなさそうだ。
「警察?あんた警察行くの?!」
警察と聞いてオリィの表情に光がさした。
しかしそれはすぐに陰ることになる。
真顔で、あまりにも真顔で
「お前は命、気をつけろよ」
数々の危機を奇跡のようにすりぬけてきたロワ・アグマータテア王子が、まるで預言者のように告げたからだ。
<続>
数年ぶりに小説書いてUPしようとしてる夢を見た……!こういう時は夢の中でネタもほぼほぼ固まってあとは出力するだけなのである。




