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書記官の置き土産

いと高き天空都市バルスドーラの王宮にて。


18歳のロワ・アグマータテアは涙ぐみ、鼻を赤くして呟いた。

「3歳の迷子のために、みんながよくしてくれた。書記官も、ダンツェの親父も、ヴェードロの連中も……闇医者に『杖潰し』させて湖上農園に逃げたほど……」

『杖潰し』の一言に一同は顔を歪めた。それは正規の医療現場では語られることのない、社会の陰で重罪人にほどこされるという噂の『魔法を使えなくする手術』だった。

水も炎もあやつる天空都市の魔術師にとって、魔法が使えなくなるというのはライフラインの死に等しい。天空都市での生活は無理とされ、最低の障害年金を手当にもらいながら湖上農園で食料を育て暮らすこととなる。大地の女神に憎まれている彼らにはその他の場所で生きるところはない。


こらえた涙の粒がぱたぱたっとロワの手の甲に落ちた。

「立派な、大人達だよ」

「立派な大人達が命がけで育ててくれたのに、有名なガセネタを真実と信じ込んで、単身意気揚々と天空都市に叔父殺しに来るとか報われないよね」

オリィの口は本日も絶好調。

「ぶん殴るぞ!!」

元盗賊団に育てられた王子様は口が悪い。


「左様であるなら」

重々しくバルスドーラ王は意見した。

「それほど現場が混乱していたのであれば、入力ミスは仕方あるまい?データベースは完璧であることが求められるが、人間はいつも完璧であるとは限らない。入力が人間の手によるならば、入力ミスははじめから想定される誤差であろう」

現代にたいした権力などないと言いながら、王宮に住むこの革命王直系子孫はこの場では一番の上長であった。上長からの温情。その場の全員が書記官ジェノ・ダークの首の皮が繋がったことを理解した。

「王様かっこいい……さすが革命王様のご子孫氏……!」

革命王x演説公BL歴史創作を愛するオリィは時空を超えて感動した。(あっちょっとこういうタイプの攻様いい新しい)とか思ったことは直系子孫の真ん前では秘密だ。歴史は半ナマ、気をつけよう。


ジェノの顔色が変わることはなかった。覚悟は15年前にすでにしていた。温情はあったが完全な無罪放免はないと思っている。

「ジェノ・ダーク、バルスドーラ王の心遣いを土産に、王宮をおいとまいたします」

そして後ろで感激していたオリィを引き寄せるとフードを下ろし

「最後のご奉公、といってはなんですが、このような者を見つけました」

「「ひょええええええええええええええええええええええええええええええ?!!?!?」」

十六夜の間がどよめいた。

あ、そこは「ぴゃあああああ!」とかじゃないんだ。やっぱりあれは乙女にしか許されない悲鳴だよねなどとオリィはのんびり考えつつも、その場の皆様の反応にかなり引いた。

「あれ……これはひょっとするとひょっとして……」

脳みそをフル回転させて、出た仮説。

「いわゆるひとつの『おぬし余の顔を見忘れたか』的な……」

「うん、それ」

王様の語彙力が激減してる。

「なんということだ、本人に会ってもらいたい。その者、名と年は」

問われてオリィは物怖じせずに返答した。

「オリィ・ザッテちゃん、13歳でーす!」

さらにどよめく室内。


どうもオリィはとんでもない人物と似た顔であるらしい。

その名はロワから明かされた。

「フェイニ・アグマータクスト。現バルスドーラ王の12歳の一人息子とおんなじ顔してるんだよあんた」


<続>

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