ジェノ・ダークの重罪
いと高き天空都市バルスドーラの、頂きなる王宮にて。
15年前の王太子一家崩御事件。
王宮データベースを預かる書記官であった若き日の書記官ジェノ・ダークは、迷走する情報の渦の中にいた。
「王太子が亡くなられた?!」
「妃殿下も?!」
「殺傷?!!毒殺???何故?!犯人は??」
「今警察が」
「王子は?王子は今」
「居なーい!!」
叫んだのがジェノだった。
「さきほどお伝えしましたとおり、ロワ・アグマータテア王子は2時間前に大通りに向かって突如走り出し現在行方不明中です!!お付きの者は何をしていたのか。王子はまだたったの3歳でいらっしゃるというのに!」
「いや。3歳男児は普通にヤバい」
同僚のフーガが冷静につっこんだ。
「そうなの?」
ジェノは育児ノータッチであった恥を晒し、フーガは溜息ついた。なるほどこれは嫁さんは大変だったろう。鬱憤をためにためこんだジェノの妻は昨年ほとんど蒸発のようにジェノの家から逃げ出した。
突然走り出した3歳王子を見失っているうちに、そのご両親が崩御された。王宮書記官、官僚、警察、全員が大混乱。とりあえずバルスドーラ王と第二王子を緊急避難させた。
「心痛、いかばかりかとは存じますが、情報!正確な情報を!」
日が暮れ、月長石の都がほの白い蓄光を放つ頃になっても、王宮の混乱は収まらなかった。まず王宮データベースへ正確な情報を入れなくては。マスコミへの発表はその後だ。その前に情報を警察が捕まえなくては。ジェノは普段使わないブランクデータを叩きつづけた。
王太子アルテス・アグマータトアラ崩御
死因:□□□□□□ /*未確認。後日記録
王太子妃レイア・アグマータパテラ崩御
死因:□□□□□□ /*未確認。後日記録
アルテス王子ロワ・アグマータテア行方不明
□□□□□□□□□ /*未確認。後日記録
「なんだこれは」
自分の仕事っぷりの無様さに笑えた。
「王宮データベースも笑えたら笑っただろうよ」
フーガもぐったりとなる中、速報が飛んだ。
「ロワ王子らしき児童、発見の模様!」
それは不幸中にまばゆいばかりの吉報で
あるはずだった。
「身 代 金 を 要 求 されています」
「…………………………………………………………………………………………は??」
王宮で警察が大騒ぎになっているのは誰でも知るところであろうが、王太子崩御の情報は未だ市井に出回ってはいない。
「犯人は」
「『連中』です。今回も」
『ヴェードロの連中』。ここ数年の不況の中で窃盗などに手を染めるようになった元石工の集団である。
「あいつら、窃盗、強盗、詐欺とさまざまやってきたが、まさか王子誘拐とは……」
「内々の情報ですと3歳児が突撃してきて、それが王子様で、帰りたくないってゴネるので、じゃあ身代金とかください?って言い出したらしいです」
緊張感がどっかにいった。
フーガは大きく天を仰いで、重い体をよっこらしょとデータベースに向けて
「おい」
入力の手をジェノに止められた。
「王太子を殺した犯人がまだ捕まっていない!」
ジェノは厳しく早口にまくしたてた。
「まだ王宮付近にいる可能性もある。王子の命も狙われるかもしれない。なにより帰ってきたら両親が殺されてたとか、幼子にそんな思いをさせられるのか?王子が帰りたがっていないのは幸い、しばらく『連中』に預ける。犯人が捕まり、王子への危険が避けられるまで。それまでの宿代をたんまり身代金の代わりに支払ってやればいい。連中は不況で今日を生きる金が欲しいのだ、十分な報酬が約束されているのならこちらの意見を飲むはずだ!」
フーガの手をはね除け、ジェノは打っていた。
アルテス王子ロワ・アグマータテア崩御
両親と共に発見される
「おい」
フーガのおもてが白くなる。
「それは重罪だ」
400年前の革命王より前から、王宮データベースはバルスドーラの中心だった。
バルスドーラ王よりも。あるいは魔法王神官よりも。はるか遠く古代よりのバルスドーラの権威である王宮データベースに男は虚偽を記した。
「僕が死刑になっても、3歳の子に命を拾わせてあげたいよ。うちの子はもう9歳だし僕がいなくても母さんが育ててくれるさ」
ジェノの笑顔がそれまでの彼に見なかったほど爽やかで、フーガは眩しくて「馬鹿野郎」と目をそらせた。
<続>




