神官の素質
天空都市中央区。その中心にそびえ立つ王宮の書記官によって事件の真相が明らかになろうというところだが、ここは失礼して、病院待合室に残された面々の話を先に語らせてもらいたい。
泣き止んだ商店街の花リインナ・グロースであったが、
「王宮だってよ。リインナさんも来る?」
オリィの問いには顔を覆って首を横に振った。
「こんな、真っ赤な目で、バルスドーラ王の御前とか、無理。残念だけど、無理」
目くらましのための魔法いくつかと、その重ねがけの手間と失敗の可能性と、だったらお化粧の方がまだ早い、ということを一瞬で考えてリインナは返事した。
「ここに残るから、オリィとおじさまは行ってきて」
「俺は行く」
なぜか話題に少しも混ざっていないはずのノスコンが手をあげて主張したので全員(なんで???)と心にクエスチョンマークを並べた。
「じゃ、ボクも行こうかな……」
ウィリィも控えめに勢いに乗ることを期待し
「じゃオレも……」
ゼムまで言い出したところで
「ゼムさんはリインナさんの側にいてあげなきゃじゃない?」
ウィリィは未だしゃくりあげるリインナを案じた。
ということはこの場に残るのはリインナとゼムの2人だけで、あとは全員王宮に押しかけるということで
「ふっふーん!!」
オリィは訳ありげなニヤニヤ笑い。
「そうね!つまりそういうわけね!『あとは若い2人だけで♡』ってことね!」
この13歳、年齢フィルターかかってないもろもろをどっかのジャンルで覚えたらしい。
「ふざけんな!」
反射的に無口な従兄弟が赤面し
「若くないぞー」
四十路石工は苦笑いした。
「急ご急ご♡邪魔者は退散しよ♡♡」
頭の中ピンク一色な無敵な少女に一行は追い立てられて立ち退いていった。
残されたゼムはくすっと笑って、まあ、多分自分のせいで、泣いてる美女を一人で残すのは立派じゃないなと納得した。
リインナはずっと顔を覆って黙っている。ゼムも黙って、妹の教え子を見守った。
「セラレンスス」
そのゼムを呼ぶ声がして顔を上げると、中央区病院を一周してきたであろう神官ネルがそこに立っていた。
「教授、いや、君の母君とは短くなく病院に共に居させてもらった。残念なことだった。長らえたなら今、神官職にあったのは彼女だったろう。女性初の神官という肩書き付きで」
「それは言い過ぎですよ」
肉親を褒められてゼムも悪い気はしなかったが
「母は、命を含め多くを父の病気を癒やすための研究にかけていました。ああいう人は政治家には向かないでしょう」
急死。借金。父の介護。妹の学費。後のすべてをひとり背負ったゼムには素直に母を敬愛できるシンプルさはなかった。
「いや」
ネルはそれをはっきり否定する。
「四魔法王神官は現在のバルスドーラ政治の頂点であるが、同時に魔術師としての頂点でもある。魔術師として最も優れている素質を彼女はしっかりと持っていた」
魔術師として最も優れている素質。
それは一般的に数値で測られる「魔力値」などではなく。
「情報、および、情熱。」
現魔法王神官は定義する。
「魔術に関する情報を溢れるほど持っている。それだけではだめだ。大切なもののために全てを捨てられるだけの情熱がなくては」
ある人からは狂っていると見えるほどの。
「その両方を備える者だけが、バルスドーラとバルスドーラの魔術を進歩させられる者として選ばれる」
それはつまり
「貴方も大切な者のために全てを……」
「言葉として尖ったものになるが、狂気、とも言うな」
「ゼム・セラレンスス」
かつて命を見つめる現場にあった彼の問いは
「君に情熱はあるか?」
常に的確かつ鋭利に
「病の父の為、働く母の為、借金と妹の為……多くが犠牲でなく搾取であり、そのまま燃え尽きようとする君の、君自身のための情熱はどこだ?」
ノスコンの胸を深くえぐったそれは
「それでもオレは後悔していません」
ゼムの表情を変えることはなかった。
ゼムが微笑んでおり、ネルが表情を固くして、
「それは結構」
そんなやりとりに横で遭遇したリインナ・グロースは(それは、いやだ)と胸を痛めた。
<続>




