黒い十字星の疑惑
いと高き飛空都市。宵闇に星喰らうバルスドーラの上で。
王宮の塔より高かったプライドを真ん中からポキッとやられそうで、ノスコン・ダーク14歳は3日3晩悶えぬいた。
都市最高の魔法素質を持つ彼の心を理解できる者はひとりもいない。14歳で人生ではじめて魔法で敗北した彼の心なんて。しかも3歳の子供に。誰にもわかってもらえないのがわかってるから、ただひたすら一人で悶えるしかなかった。
「おーいうるさいぞ!」
家族にだってわかってもらえない。俺に文句を言うなら魔力値が200を超えてから言え。魔力値は生まれつきで決まる?知るか。
少年はただひとり、悶えに悶えて、3晩こえたあたりで
「そうだ結局俺は一人だし。バルスドーラの上は空だし」
よくわからない開き直り方をして落ち着いた。
あれから10年
「ぎゃあああああああああああぁあああああああああぁああああああああああああああああぁあ!!」
トラウマが蘇る。
「……うるっさい!」
家族に言われることまで一緒である。
わかる。ノスコンはもうわかっている。彼の気持ちを理解できる人間がバルスドーラにいるわけはない。なにしろこの14年プラス10年の間、彼の魔力値を超える者は結局現れず、ずっと長老会のジジイどものテストに付き合い続けていたのだから。
「………………………………………??」
ぱたりと白い怪物は大人しくなった。
「現れなかった……??」
ようやく気持ちが現在に帰ってきた。
「……バルスドーラの現在の魔力値ランキングトップ」
「安定値211であんたでしょ。ノスコン・ダークさん?」
麗しの従姉妹に冷静に答えられ、すると疑問が浮上するわけで。
では10年前、彼を瞬殺したオリィ・ザッテとは、何者なのか?
結局ノスコンがその後オリィと会うことはなかった。長老会議堂に生意気なあの娘が現れることはなかった。
長老マルクとは何度も会ったが、彼が長老会議堂に子供を連れてくることは二度となかった。マルクの家へ行ったことは今回も含め数える程度だが、いずれも短時間で弟子だかが一緒に暮らしてたとははじめて知った。
あの日の子供がオリィ・ザッテという3歳の少女だったことは何かで耳に届いていたのだが、それから一度も噂を聞いたことがない。
かつて敗れ、今再会したあの少女は、昔とかわらず右頬に十字星のホクロ。
しかし、何かが間違っているようにしか思えない。
確かめるには……
「……もう一度」
戦う、しかない。
ノスコンはこうべを上げ、低く唸った。
「リインナ、決闘申請。オリィ・ザッテ、長老会議堂、朝4時」
「はあ?」
この従兄弟はいつも言葉が足りなくて、唐突で、奇妙だ。
「決闘申請なら自分で行きなさいよ。その女の子?のところに」
「俺は町で目立つ。それに……」
視線の先は砕けたベッドと部屋の床。
「修理する……」
一階店舗にはまだショーウィンドウ状態の大穴が開いているはずだ。
リインナは大きく溜息ついた。
<続>