王太子の復讐者
いと高き王宮の塔。広場より7mの階段の上に開かれた、バルスドーラ王謁見のテラス。
あまたの星に飾られた群青の玉座が十余年ぶりに姿を現し、そこに座するバルスドーラ王の姿を、ノスコン・ダークは王宮の内部からはじめて目にした。
王太子一家崩御事件の後、王族が表舞台に出ることはごく減った。加えてどこかのだれかさんのせいで大祭の御前試合がなくなった。
(すごい体験してるな、俺)
玉座の背後は格子のように装飾的な柱が並んでいる。無駄に長身で珍しい髪色のノスコンはどこにいても悪目立ちするが、この装飾のせいでだいたい隠れ、さらにこちらからの視界は悪くない。格子の両横からテラスへ通路。脆いことに定評のあるバルスドーラの建材なので、いざピンチとなれば破壊という手もある。
バルスドーラ王は長身に長い金髪を編み込みにして、年は40くらいに見えた。カリスマを感じるとか大した美形だとかいうのはなくて、しかしなにか心ひくものがあった。朴念仁にすら、庶民とは、なにか、どこか、違う。という印象を与えるくらいには。
(……革命王の直系の子孫っていうだけで、普通にバルスドーラ人なんだよな……?)
革命王とその子孫が代々王政をしいた時代はもはや昔。現在の魔法都市の政治は魔法王神官達を中心に動いている。『バルスドーラ王』などといいながら、イベントの時だけ段に登ってスピーチするだけの人物で扱いは貴賓というくらいか。
その王が立ち上がり、御前試合優勝者を迎える。
「ダン・ヴェードロ君、優勝見事でありました!相手の魔術すべてを打ち消すという斬新にて素晴らしい技術、バルスドーラ魔術研究の新しい1ページとなるでしょう!ここに優勝のあかしとして、革命王旗の複製を贈ります!」
四魔法をあらわす四角の連続模様が、古くより貴族の色とされた夜空の群青で染め抜かれ、中央にバルスドーラ都市を記号化した丸に十字が大きく金で刺繍されている。
それがはためき、大祭の群衆から歓声が上がる中で
「……馬鹿か。」
階段の中程で歩みを止めたダン・ヴェードロは言い放った。
テラスと階段に配置された護衛達に緊張が走る。
「……アンタ、思ってたより馬鹿でがっかりしたよ。本気で言ってるのか?俺の正体、もう分かってるんじゃないか?」
おもむろにフードを上げる。
「この顔を忘れたとは言わせない」
観衆の前列に居たウィリィも見た。
見覚えのある、黒と白と赤が印象的な、いかにも活発な少年でありながら妙に気をひく。
それを見たバルスドーラ王が凍りついた。口から何か呻きが漏れた。
ノスコンはその時「なにか心をひく」バルスドーラ王の姿の意味を理解した。肌だ。不思議なほど白い、外に出ない人のような、高貴な人のような、奇妙な印象を抱かせる人物がふたり。階段の中程とその先のテラスで向き合っている。
「忘れるわけがない。これは、お 前 が 殺 し た 男 の 顔 だ」
たっぷりと念をおしながら少年は告発する。
「15年前。お前の父が玉座に居た時代。王太子だったお前は次の玉座を狙っていた。しかし邪魔がいた。双子の兄だ。当時結婚もし男子もいたお前の兄は次期バルスドーラ王としてふさわしいと目されていた。だからお前は 兄 と そ の 家 族 を 皆 殺 し に し た」
王太子一家崩御事件。
現バルスドーラ王の双子の兄と同じ顔を持つ少年は階段を登る足を速める。ローブの奥から刃がのぞく。
「天誅だ!!」
群衆が動く。前列にいた数人がウィリィ達を張り倒し駆けた。
群衆の背後から一気に駆け上がってきたオリィが声を張り上げる。
「ノスコーン!全力で殺れェーッ!!」
反射的にノスコンは動いた。祈願。口が開く。
生まれた時から都市最強の魔法素質を持ち、杖も詠唱も、あるいは祈願すら必要なく、自在に魔法を行使していた男が。
「馬鹿!」
後衛に控えたゼムが慌てた。
ノスコン・ダークはその日、生まれてはじめて詠唱付き魔術を全力で叩きつけた。
天空都市の建材は軽さを重視して、堅牢さは二の次である。
そういうわけで、謁見のテラスと階段が魔法一発で全壊したというのがこの大惨事の真相なわけだ。
<続>




