王宮、一網打尽作戦
天空都市は月長石の皿。宝冠いだく王宮の塔は高くそびえ、外周の魔法王神殿より王宮へ、ガラスの回廊が巡る。
「……バルスドーラは月長石の皿」
高きを走る回廊の高速シャトルの窓にはりついて、オリィは使い古された言い回しを口にした。
「月長石は実際、月華石という人工鉱石で。市街の建物はみんなこれで建てられている」
天空都市の屋根という屋根が「王宮にひれ伏す」という特殊な角度で陽光を反射している。
「市街がすべて光を反射してる。その市街は中央が低く外周が高い皿……」
あるいは逆さにした傘の形。市街が傘、王宮の塔が持ち手。
「つまり」
バルスドーラという天空都市の市街は
「受けた光を全部、王宮に。王宮の宝冠に、集めている」
「ご明察」
シャトルに同乗していた官僚が微笑んだ。
「回廊の高いところから見ると実によくわかる。はじめて見てすぐにそれに気付くとはお嬢さんは実に優秀だ」
バルスドーラの市街が光を反射し。
王宮の塔の宝冠に光を集め。
「バルスドーラ下部の大規模柱状飛鋼体の動力は、バルスドーラ市街地が作っていたんだ」
天空を飛ぶ都市のメカニズム。
「緑化禁止って変な条例だけど、光を一部吸収する性質が邪魔だからなんだ。都市部は最大効率で光を反射させることを考えられているんだ」
その月華石も飛鋼も、魔術師の魔法だけでは精製されない特殊な物質で。
魔法使いの天空都市は、魔法ではない力によって今日も雲の上を運行している。
一同が王宮に着いたとき、表彰式にはまだたっぷりと時間があった。
「作戦を再確認できるのはよかった」
書記官ダークが地図を広げる。
「ダン・ヴェードロを名乗る少年はバルスドーラ王の命を狙っている。だがこれは我々、王宮勤務者が総力で現行犯逮捕で保護する。問題は、王と少年両方を消そうとしている輩が相当数隠れているだろうことだ」
王宮前広場にぐるりと指で円を描く。
「木を隠すなら森の中。誰もが布をたっぷり使った祭の晴れ着だから不審者が横にいても気付かない。観客の中に紛れるのは一番たやすく、確実だ。作戦の中心はこいつらをあぶり出すこと。君達も観客に混じって目を光らせてもらうとして」
「書記官、どう見ても森に隠れそうにない巨木があるんですが」
2m近く髪色も珍しいノスコンはどうしても目立つ。
「わかってる、これを群衆に隠すのは無理だ。というわけでノスコンには王宮内に隠れてもらう。ここぞという所で質量たる地のエレメントを薄い壁にしてできるだけ広げて全員におっ被せろ」
「一網打尽作戦!」
続けてダークは群衆のひときわ後ろを指し示す。
「ここから観客全員を見わたして、異常をいち早く発見して伝令する役が必要だ。ゼム君頼めるか」
「音声転送魔法でメンバーに指示するだけなら構わないが遠いな。いざ自分に近いところに不審者が出たら結構走らなくちゃ止められんぞ。体力に自信が無い」
四十路のきびしいところに首をかしげて
「オリィちゃんと組ませてくれるかな。見つける目は2つより4つがいい。観衆に混ざる警官を増やしてもらっても伝令魔法が2人がかりならフォローできるし、近い所なら咄嗟にオリィちゃんに走ってもらえる」
「なるほど道理だ」
ダークは感心して作戦図を修正した。
かくして、結果だけ先に述べるとすると。
謁見のテラスと階段が全壊した。
幸運にも死亡者は無し。
「バカ息子があああああああ!!!!!!!!」
書記官ダークは今日も胃が痛かった。
<続>
資料集「バルスドーラ観測所」に、今回までで明らかになった『~王宮、一網打尽作戦/天空都市飛空メカニズム』を追加しました。




