作戦指示!
ほぼ天災に見舞われた天空都市・神殿前病院にて。
まったく意図しないところから、突然ゼムの素性が明らかになったが
「ま、落ちぶれたもんさ」
元教授の遺子だという熟年の石工は、あっさり流して書類の中から手紙を拾い上げた。
「こっちの方が大事だろう。ノスコンの親父さんの手紙が入ってるぜ」
ノスコンは以前からゼム・セラレンススの地頭の良さには一目置いていた。石工という下級職に似合わない教授の息子という出自は、実に彼らしく、父親の手紙なんかよりずっと興味を引いた。
「いや、どうせ」
うちの愚息が失礼しましたとかそういうのだろう。そんなのよりゼムの半生の方がずっと気になる。生まれた頃から都市最強とかいう特別のせいでノスコンは無駄に高慢であったが、友人の過去が気になってそわそわするくらいには情があった。
しかしノスコンの父親からの手紙は
「……地図??」
王宮前広場の図面であった。
「……しかも、2枚?」
同じ王宮前広場。具体的には、謁見の階段と、その周囲の地図。
バルスドーラの大祭の花であるところの『御前試合』。御前というのは、バルスドーラ革命王の直系の子孫であるバルスドーラ王の御前で魔法試合を披露するところからきている。四魔法王神殿前を勝ち上がった4人が、バルスドーラ王の前で試合を行う。その時バルスドーラ王が使われるのが謁見のテラスであり、優勝者はそこへの階段を登って、直接王より旗を与えられる栄誉を受ける。
2枚の謁見の階段の地図。
そこに書き入れられた、人物と行動。
2枚の地図にはそれぞれ「ノスコン回復のとき」「ノスコン不在のとき」。
1枚目の余白には神経質な文字がびっしりと並んでいる。
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水の神殿前広場の勝者は、ダン・ヴェードロを名乗る少年で確定。
バルスドーラ王を害する目的のため、御前試合で優勝を目指している。
少年は、相手が用意するエレメントを必ず打ち消す特殊な能力がある。
あえてこれを勝たせて、謁見の階段で現行犯逮捕する。
少年は魔力値が低く、一度に複数の魔法を行使することはできない。
こちらが複数人、複数エレメントの魔法で一度に仕掛ければ止められる。
ただし少年の他に、王と少年両方を害する目的の輩が現れることが予測される。
目的はあくまで『王と少年の保護』。
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「作戦指示書!」
オリィのまなざしが厳しくなる。
ノスコンも腑に落ちた。父親が水の神殿前広場でノスコンに負けるよう指示した理由。
偽名ダン・ヴェードロが御前試合が復活するバルスドーラに侵入した理由。
「あたし、とんでもないヤツ連れてきちゃったんだな……!」
オリィが黒い巻き毛をもじゃもじゃとかきまわす。
「ボクも共犯だよ。がんばって捕まえよう!」
ウィリィは回廊シャトルのパスを持つ指に力をこめた。
「ノスコンの回復が遅くなっても、地の神殿から回廊シャトルを使えば、王宮前広場の表彰式に間に合うって算段か」
「時間は?!」
「十分!」
ゼムが顔を上げると、くだんの老人が頷いた。
「話は聞かせてもらいました。皆さんは書記官の指示に従ってください。神官には私から話をしておきます。どうぞご無事で!」
指示書の一文にもう一度目を落とす。
『ただし少年の他に、王と少年両方を害する目的の輩が現れることが予測される』
ここしばらくの平和な天空都市に無かったような荒事がおきそうだ。
「そりゃ、ノスコンのいるいないで作戦が変わるわな」
オリィはすっかり普段通りの怪物に戻った相方を見上げてニヤリとした。
「おもいっきり、いっちまおう!」
<続>




