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魔力、消失?

天空都市バルスドーラの4日4晩の大祭は3日目の半ば。



敗退したノスコンは父親をひと睨みすると、足早に水の神殿前広場を去った。

その場に留まれるでかい器は持ってない。この男のプライドはどうにもめんどくさい。

フードを目深に被り、シャトルで中央区へ。しかしそこで降りる気持ちにもなれず、結局オリィ・ザッテの横まで来てしまった。


四十路のゼムにはそんなめんどくささを見守るだけの器量があったので

「まあ何の理由もなくお前が負けるわけないからな。気に入らないことなら今日話す必要もない。祭は楽しまなくちゃな!」

オリィが煽るより先に陽気に声をかけた。

魔術師達は石工などただの体力馬鹿と軽んじる傾向があるが、ゼム・セラレンススが愚鈍だとはノスコンは思わなかった。なにしろ口から生まれたようなオリィと漫才すらできるのだ。感心すらしてたし、この場ではそっと感謝した。

(ここまで足を伸ばしてよかった)

そう思ったし

(……で、なんでオリィなんぞの所にわざわざ来たんだ俺は)

本当に。

わざわざ罵られるのがわかって来たのか。これがいわゆるマゾというやつか?いや違う、俺は断じてそういう性癖は無い……先刻からずっと頭の中が静まらない。


なんとなく喉が渇いて、ノスコンは掌を盃にした。エレメントを使役する魔術師には水筒も水道も不要だ。新鮮で清潔な水はいつも簡単に手に入る。

「……」

傾けた掌は空。

「……?」

はじめての現象に、もう一度気持ちを集中させる。

「……???」

「ノスコン、あんたなんでペリカンになってんの?」

奇妙な動作を繰り返すノスコンに、オリィは辛辣だ。

というか、状況が不自然すぎておかしくて、声をかけないではいられなかったのであって。

「……水が、出ない」

「……は??」

ガチな異常事態だということに気付くまで時間がかかった。

「熱はないか。目眩は?」

ゼムが真剣な面持ちで立ち上がり、ノスコンの肩を支える。

「いや……そんなことは……」

一部の病は魔力のパスを傷つけ著しく魔力を落とすことがある。そういう病に冒された魔術師が復帰できることは無い。ゼムもノスコンもそういう人物を何人か見たことがある。

「違う……そういうのじゃない。どこも痺れない……し、頭も……」

先ほど少し、混乱した程度で。

使った魔術がことごとく相殺されたとか。

父親に八百長を指示されたこととか。

従姉妹との結婚なんてありえないことを思ってしまったとか。

……ありえないか?

(というか俺が結婚するとしたら、選択肢とか無いんでは?まともに話せる女とかリインナしかいないのでは?いや、もう一人いたな)

「しっかりしろノスコン!水が出せないとかオオゴトじゃない!あんたトイレどーすんの!?野糞?!野糞なの?!?!」

(いや無いわ)

一瞬頭に浮かんだもう一人に騒ぎ立てられてノスコンはいくらか正気を取り戻した。

「ちょっと気持ちが戻った。試す」

だがやはり水の一滴もノスコンは出現させることができなかった。


昼食時で少なめのギャラリーがにわかにざわつきだす。

「オリィちゃんさすがに花の乙女が野糞連呼はいけない」

ゼムが首を振る。

「いやだってそれ一番大事じゃない?」

「多分もっと大事なことがある。幸いここは神殿前広場、設備は一式揃ってる。オリィちゃんは至急ノスコンを病院に連れて行くんだ。遅れて取り戻しができなくなる前に!」

真剣に託されて、オリィは強く頷いた。

一番戸惑っているのはノスコン本人だ。


強く引く掌が、小柄な少女のものなのに逞しく感じる。

(魔法が)

使えない?

あるいは一生、使えなくなる?

それは今日起きたどんなことよりノスコン・ダークにはありえないことのはずだった。

生まれつきの都市最高の魔法素質。杖も詠唱も24年間ひとかけらも触ったことがない男が、今一滴の水すら発現できない。

「そんなのは、だめだ、だめだ、だめだよ!」

顔を背けながらオリィは口早に呟いた。


<続>

物語中に挿入していた設定集「バルスドーラ観測所」は別小説として分別の方向です。

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