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25%

雨雲の上空を行く天空都市は、豪雨の前のあの匂いを知らない。



「さて……」

魔法素質は理想値を100とした測定機で測られる。

少年期より200を超した白い怪物ノスコン・ダークは、魔法都市の常識を今日もまた覆す。

「定石は意味が無い。二番煎じは通用しない。加え、並の盾魔法は愚息の全力には耐えられない」

実父である書記官ダークの分析に、実況席のブロンスも固唾を呑むばかり。


舞台にはいよいよ6番目の挑戦者があがる。

晴れ着のフードはたっぷりと顔を覆う。大祭の魔法勝負で視界を確保するためにそれを脱ぐのは、武道の一礼に似た厳かさがある。しかしこの挑戦者はフードを上げることはしなかった。フード布自体があまり大きくなくてレースの縁編みを幅広くとっているので、そこそこ視界があるのだろう。

(変わった人だな)

ブロンスはその程度にしか思わなかった。

(御前試合が初めての若者かな)


しかしその予想は

「……はじめ!」

砂時計を持つ審判員の合図と共に裏切られた。


一瞬の蒸気。


魔法はどちらにも届かない。

「無詠唱?」

無詠唱魔法はノスコンの十八番おはこだが、挑戦者にも詠唱はなかった。

「相対したエレメントでの相殺」

ダークが冷静に状況を説明する。


2発目。

再び蒸気。


2連続の相殺。

ギャラリーがざわつきだした。


早撃ちの3発目。これもまた蒸気。


「……まさか」

異なる性質を持つ4つのエレメント。火と水、地と風は相対し攻撃魔法は打ち消される。

両者無詠唱なのだから、偶然打ち消しになる確率は25%。

けれど、それが、3回も続くとは?


4発目、蒸気。


ダークは解説席から立ち上がった。杖を構える腕で口元を隠しながらの詠唱は御前試合の定石、古い世代には染みこんだ所作だ。

『我願わん 満ちたもう風』

略式ながら正確な早口で、次の瞬間には


『ノス!』

ノスコンの耳朶の中に空気振動である声が届いた。風のエレメントを使役した音声転送だ。

「親父?!」


『負 け ろ !』


その間に5発目が蒸気になる。


「は?」

勝負が既に混乱をもたらしているのに、さらに父親のこの言葉。

『とにかく負けろ。絶対負けろ。勝ったらお前とリインナを婚約させるぞ!!』

「はあああああああ?!?!?!?」

人間ひとつの困難に立ち向かう時は強い。

しかしそれが一度に2つ3つとなると、とたんに脆くなる。

ありえない状況、ありえない指示、ありえない脅迫。

加え、魔法勝負は時間制限ありの電撃戦!


一瞬、ノスコン・ダークは魔法の使い方を忘れた。


甲高い音。白い光。

それは都市最強の魔法素質を持つ白い怪物のふところで発生した。


ノスコンは怒るでもなく、崩れるでもなく、ただ呆けた。

ギャラリーの歓声が耳に入らない。

なにかすべて他人事のようで、現実感がまるでなかった。


「魔力差は話にならないレベル。魔法が相殺された時に見えた蒸気は、ノスコンの強すぎる魔力が相殺後すら場を歪め可視化したものだ。それほどであってもエレメントが相対するなら魔法は無効化……」

ダークは低く呟いた。

「まったく、25%というのは低い数字ではないな」

そう言うこの書記官が微笑んでいたか眉間にしわを寄せていたのか、神殿前広場の魔術師達は誰も知らなかった。


<続>

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