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恐るべき定石破り

空より星率いて来たるアグマートは、天空都市にて今もその命を語る。


野外劇は1日目が天地創造。2日目が流星の夜と仮面の女神の戦い。3日目は星屑の竜と巫女乙女の誕生。4日目に巫女乙女が天神アグマートに嫁ぐパレードになる。

御前試合の予選は1日目から3日目。1日目は子供達が親同伴で遊び、2日目には経験の浅い若者が多い。3日目となると予選突破を狙うガチ勢の勝負だ。


「子供達は可愛かったよねえ。年下の女の子に負けてぴいぴい泣いてる男子とかいたよ」

「嫌味か?」

「いや全然。だいたいそもそも」

太陽は真上をすぎたばかりの3日目。地の神殿前広場にて。

「……なんでアンタがここにいるの?」

オリィの問いに

「負けたからな」

ムスッとしながらノスコン・ダークが答えた。

かつて3歳のオリィに負けて引きこもり、13歳のオリィに再び負けて家出した、都市最高の魔術素質とプライドを持つ男が、平然とそこに立っている。

「今まで負けたらぎゃあぎゃあわめきながら器物破損してたあのノスコンが……成長しすぎて気持ち悪い」

「本意じゃなかったからな!」



さて、そんな「本意じゃなかった」事の次第を語るとしよう。


「御前試合予選は本命3日目!今日も実況は青年会ブロンス・リイスと!解説は」

「……いつも愚息がお世話になっております」

「書記官ジェノ・ダーク氏でお送りします!」

ノスコンが予選会場に行ったら、父親が解説席に座っていた。


「何やってんだ親父!?」

仰天する息子に、ブロンスが横から口を挟んだ。

「昔の御前試合を知るベテランで、こっちを勝ち抜く予定の君を一番良く知る人物だからね。盛り上がること間違いなしってことさ!」

「いや」

今バルスドーラには、昔の窃盗団の名をかたる不審な少年が潜入しているのだ。書記官ダークはこの情報を知らされて対策をとっていたのではなかったか?

「とにかく、御前試合は電撃戦の連戦だ。力押しだけで勝てると思ってたら、甘いぞ」

そんなダークも昔からの天空都市っ子だ。

「本気で勝つつもりなら序盤で出ろ。5、6人連続で叩きのめして格の違いを見せてみろ。それで新挑戦者が出ない空気にできれば、お前にも希望はある」

的確なアドバイス。

ノスコンは頷いて舞台に向かった。


勝負に挑む2人の胸には藍色のプリズム。魔力吸収結晶体のペンダントだ。

「長老マルク新発明のこちら、実に見事な魔道具です。攻撃魔法に被弾した時の爆発エネルギーを吸収すると、高音を立てて白く発光します。お陰で復活した御前試合、今まで怪我人が一人も出ておりません。なお発光したプリズムは冷水に3分つけると元の色に戻るサステナブル!各神殿前広場に2つプラス予備2つで、円滑にイベント進行中です!」

「爆発エネルギーを吸収して、光・音・熱に変換して放出するわけだな。しかし愚息に対しては2割諦めたという話だが」

「ですので今年は特別ルールを採用してます!」

ブロンスが手をあげると、杖を構えた4人の魔術師がノスコンを取り囲んだ。

「明らかにヤバそうなのが来たら、4つのエレメントを準備した4人がかりで即座にボコります」

「おい?!!?!?!!」

無茶苦茶な対策に都市最強が絶叫した。

「なるほど相対するエレメントで相殺できるなら、4つのエレメント全部を準備しておけばどれかで消せるというわけか」

冷静に感心する父親。

「これで神殿前広場に大穴とかも防げます!」

胸をはるブロンスに、石工ゼムは適当に器物破損していいよって言ってたのにな……!となるノスコンだが、咄嗟に言い返す言葉も出ずにただぐぬぬとなった。


しかしダークのアドバイスは的確だった。ノスコンは場に出て3人をほとんど苦労せず連続で退けた。

「どうしても一手、早い」

ダークは評価する。

「『呪文詠唱を読ませない』のは魔法試合の定石中の定石だ。しかし愚息は無詠唱が基本、初手『詠唱隠し』を張る必要が無い。このどうしても一手早いという相手を敵に回せば、もはやそれまでの定石は通用しない」

4人目は未明の決闘でオリィが勝利した『物理』で挑んだ。魔法で挑むのを諦めて手に隠した小石を投げつけようとしたのだが、ノスコンにとってはもはやネタバレの手品。威力を捨てた早撃ちは小石より早い。甲高い音と共に相手の魔力吸収結晶体が発光する。すぐ側で砕けた小石が散らばった。

「定石は効かない。不意打ちの二度目もない。新しい発想のない魔術師に勝ち目は無い」

5人目は初手で盾を張り、ノスコンの早撃ちを見事防いだ。

「しかしそれも残念だ」

ノスコンの2撃目は都市最強。

「あっ……!」

「相対するエレメントでなくても、威力が違いすぎれば割れるしかない」

砕けた盾の裏にもう一枚盾を張るより早く、無詠唱の早撃ちが身に届く。結晶体が発光する。


「さあ、どうやってこれを倒すかな?」

ダークは背筋に寒いものを感じつつ、口角を上げた。


<続>

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