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白い怪物の敗北

月長石の飛空都市。魔術師の町バルスドーラにて。



魔法の素質は生まれつきで決まる。

その能力は数値で示される。


初手で200オーバーの数値を叩き出し、生来のかわいげのなさを併せ持ってすくすくと育った、ノスコン・ダーク14歳。

多感な年頃である。凡人ですらあれこれやらかすというその年齢に、彼は強く己の境遇を憎んでいた。

「俺は、生まれた時からずっと、頭のおかしい隠居ジジイどものオモチャだ」

「ただ俺の魔力がバルスドーラで一番強いというだけで、ジジイどもは毎日くだらないテストだのをくりかえさせる」

「俺は、一生、こんな?」

「俺が本気を出したら、あんなジジイどもはいっぺんにミートソースにできるのに!」

すべてが絶望だと、ノスコンは自分に言い聞かせていた。


「ジジイもガキも皆殺しだ。オヤジもババアも死んじまえ。王宮の塔を真ん中から折って。町を正確に12等分にして。誰も知らない大海原に沈めて、歴史上からバルスドーラの名を消せるんだ!俺は!」

日々物騒な計画を立ててながら、しかしそれを実行に移すこともなく、

「はいはいダークくん、じゃ次これね。何分保持できるか測るからね」

「めんどくせえ……!」

ニコニコ笑う長老会メンバーに挟まれるという日常であった。


この長老会のジジイという集団、だいたいいつも全員ニコニコしてるので、ノスコンはその凶暴な牙をむいて立ち上がることができない。

「前回のテストで正確な数値を出せなかった理由だが、多分…」

「なるほどなるほど。わくわくしますなあ」

「ダークくんは将来有望だねえ。書記官は絶対無理だけど四神官にはなれるかもしれないよ」

「そう!書記官は絶対!無理!ははははは!」

「ダークさんは書記官だけど息子はほんっとにそういう才能皆無!」

バカにされてる気がしてノスコンは大いにぶすくれたが、元々かわいげのない子供なのでジジイ達は別に動じない。


そんなジジイ達の中で

「おお、ノスコン!」

ひとりだけ、「ダークくん」ではなく「ダークさんの息子」でもなく「ノスコン」と呼んでくれる人がいた。

「もう来てたかね。いやあ今日は是非君に会いたくてね。よかった」

長老マルク。

そのひとりだけの例外を、なんとなく、少年は特別なもののように感じたいと願っていたのだ。


その彼が、その日、別な子供を連れていた。

ノスコンは愉快でなかった。反射的にそれをにらみつけた。

右頬に十字星の形の4つのホクロ。黒い巻き毛と同じ色の瞳は、子供らしい愛らしさにあふれていて、男女どちらかは判断しかねた。はっきりと幼かった。

「可愛いね!いくつだい?」

「3ちゃい!」

子供は天使のような笑顔で指を3本立てた。老人たちは皆破顔した。


その中で14歳のノスコンだけが、じりじりと焼けるような苛立ちを抱えていた。子供がノスコンを見上げた。笑って言った。

「じーちゃん、アレをぶっころせばいいの?」

その不遜さが、ノスコンの苛立ちに決定的に火をつけた。

「ぶっとばすくらいにしてくれるかな?」

「やれるもんならやってみろ!!」

同時に上がった声に



次の瞬間おこった出来事がノスコンにはよくわからなかった。

視界が、急に白くて、その白の中に突然の紅が現れて。

ノスコンはゆっくり理解した。紅は、血だった。白は床だった。白い床にぱたっと鼻血が垂れたのだ。体がテーブルかなにかに乗り上げていて、頭だけ乗り出しているような形だった。はっきり出血しているほど痛みは感じていなかった。たぶん、少しだけ気絶かなにかした。


(負けた)

(……負けた?)

最高の魔力を持って生まれた彼の、生まれて初めての、経験。

長老たちが何か叫んでいるのが届かない。体は妙に寒い。胸が、なにか、痛い。

日々に絶望したとか言いながら、実は密かに自分の能力を誇っていて、優越感に浸っていて。

それを、長老マルクが連れてきた3歳の子供に、一瞬で打ち砕かれて。


誰かが少年をひっくり返して顔にハンカチを当ててくれたけど、具体的にどうなったとか周りで興奮気味に話しているのはぜんぜん頭に届かなくって。

少年はその日、どうやって家に帰ったかよく覚えていない。ただ、体が寒くて、胸が痛かった。


<続>

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