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電撃戦にすべてをかけろ

月長石の都に錦の旗が満ちる、異教の大祭の広場。


「『実況と解説』???」

大祭の御前試合にて反則少女オリィ・ザッテを今度こそ正面から堂々とボコる予定だった都市最強ノスコン・ダークを襲う予想外の展開。

「だからあたしが『実況』で」

「オレが『解説』なんだな」

石工ゼムが並んで答える。

「噂の新チャンピオンであるところのオリィちゃんは、シードで決勝から出るの。予選では『実況と解説』で御前試合の花になるの」

まさかの予選スルー。

「オリィちゃんと勝負したかったら、ノスコンは予選を勝ち上がって決勝に出ればいいだけだぞ?」

ゼムは「ほれ」と神殿前広場を指さした。

「水の神殿前広場の予選、他を選ぶ必要はないだろ?あの事件でお前を嫌ったり恐怖したりする連中はいるが、オレとしてはお前の『力押し』がどこまでいくかワクワクしてるぜ。御前試合のニュースタンダードになるんじゃないかってな。まあ適当に器物破損してくれ、オレ達の歩合があがるからな。がんばれよ!」

石工界の大不況が収束したのは、この人間ブルドーザーの誕生が関係しているという噂がある。心底愉快げにゼムが笑う。

「まあノスコンの力押しとか経験豊富なゼム兄貴の解説を出すほどじゃないから、水の神殿前広場の実況と解説は別な人達をスペシャルゲストで呼んでるよ。あたしたちは地の神殿前広場に行くんだわ。じゃ決勝で。ボコッてあげる!」

2人は連れだって大通りのシャトル乗り場に歩いていった。

「な……なんだ??……なんだ??」

戸惑いながらぽつんと取り残されたノスコンを眺めて、ウィリィはくすくす笑った。



「というわけでー!」

「地の神殿前広場、御前試合予選だよーっ!実況は天空都市のニューアイドル、期待の新星オリィ・ザッテちゃんと」

「中止前の御前試合を知る男・44歳石工、ゼム・セラレンススの解説で盛り上げるぜ!」

1日目の予選は子供達の遊びと言いながら、舞台は十分きっちり整ってるしギャラリーも少なくない。

「オリィちゃーん!」

「がんばれー!」

バルスドーラの有名な大怪物・ノスコンをへこませたオリィの人気は本日も輝いている。

「さてうら若いオリィちゃんに今日は特別なプレゼントがあります」

「何ですか兄貴」

ゼムは隣の男の背中を叩いて合図した。男がさっとギャラリーの中へ走って行くと、舞台に2人の魔術師があがった。子供ではない、大人である。

「オレの後輩。どっちも中止前のバルスドーラの御前試合を知ってる奴らだ。生まれて初めて大祭の御前試合を見るオリィちゃんに、かつての勝負がどういうものだったか見てもらおうと思ってな」


布をたっぷり使った晴れ着は、顔が見えないほどのフードの深さ。2人の男はそれを脱ぐ。さすがに視界の悪いままで戦うのは具合が悪いだろう。30代くらいだろうか、オリィは初めて見る顔である。

審判員が上げた手を振り下ろす。

「はじめ!」

ゼムが語る。

「初手は定石」


『『願い奉る風の竜 膜となり音を閉ざせ!』』


短い詠唱の後、2人は晴れ着の袖で口を覆う。

「空気の振動を遮断するごく薄いシールド」

つまりお互いの音が聞こえない。

「口を隠せば詠唱を読ませない」

魔法は本来、詠唱と杖を欠かさない。杖無し無詠唱の爆発物は例外中の例外だ。本来の魔術師の勝負は、まず詠唱を隠すことで自分の手の内を隠す。


『願い奉る 火の竜……』


「普通に詠唱聞こえるんだけど?!」

「『詠唱隠し』は戦う2人の間に作られる。裏のギャラリーには丸聞こえだ」

オリィと同じく聞こえるギャラリーが騒ぎだす。

「火だ!」

「水だ!」

「風の盾だ!」

全員言うことがバラバラだ。

「観客は敵と味方の入り交じり。どれを信じるか?」

2人同時に光の障壁を建てた。

「『盾』が重なったな。反するエレメントか力割りをしないと通らないぞ」

オリィは詠唱を聞いてるので、火のエレメントのシールドなのはわかっている。

「地だ!」

「火だ!」

ギャラリーの声は相変わらずばらけている。

「試合前に仲間をどこに立たせるかが既に勝負」

片方が杖を振るい、片方は2枚目のシールドを張る。攻撃魔法はシールドを通らなかった。

「攻め読み違い。盾数を増やすのは魔力が要る」

2枚盾からの詠唱が長くなる。その間に1枚盾が再度の攻撃。

「『盾割り』!」

2枚盾の1枚が砕け散る。

「そして魔術勝負は電撃戦だ!!」

ゼムが審判員の掲げる砂時計を指す。

2枚盾が1枚保持時の魔力に戻る。詠唱が滑らかに攻撃魔法に移行する。


『……即放て!!』

読みも正確に、相手の盾が砕かれる。

審判員が砂時計を叩く。

「勝負あり!!残盾1と0!」

ギャラリーがどっと湧く。最後の盾を割られた方は膝をつき、盾を1枚残した方は笑顔で握手を求めた。

「どうだ?」

「……うん!」

オリィの瞳は輝いた。

「本来の魔法試合は、短い時間のうちに、味方を探し相手の手を読み、攻防を組み立て、全力の魔力で複数の盾を保持する、魔術師の心・技・体すべてを燃やし尽くすスポーツだったのさ」


<続>

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