大祭のはじまり
<前章までのあらすじ>
魔術師住まう天空都市バルスドーラ。狂った魔法素質を持つノスコン・ダーク(24)が中止に追い込んだ大祭イベント「御前試合」が復活に向けて動きだす。一方新チャンピオン、オリィ・ザッテ(13)はダン・ヴェードロを名乗る謎の少年の入都・逃亡に荷担する羽目に。ノスコンとオリィはダンを探すも見つからないまま大祭の日が来てしまう。
いと高き月長石の都、魔術師住まうバルスドーラの四魔法王を称える大祭。
屋台が並び、造花と小旗で通りは飾りたてられ、行き交う人々は皆晴れ着だ。魔術師の正装はやはりローブ。いつもより布はたっぷり使われて、袖口は手が見えず振り袖が床につくほどフードは顔が隠れるほどある。たくさんの組紐や飾り帯で色とりどりに飾られて、野外劇の主役たる巫女乙女役の女性など重ね着の上に重ね着で相当重いはずだ。
「やあやあノスコン!」
それほど着込んでいてもこの男は目立つ。服はほとんど白系、無駄に長身、都市では珍しい色素の薄い荒れて黄ばんだ獣じみた長髪。本日は結わえてフードから前に流している。
「その声、オリィか」
晴れ着のフードが深くて顔が見えないというのがバルスドーラの粋である。
「いえい。まあ、今年は新しいローブを新調する暇もなくて、去年と同じローブになっちまったよ」
いつも陽気な少女が苦々しく吐き捨てる。結局大祭当日までダン・ヴェードロの尻尾をつかめなかったことへの自責の念が晴れないのだ。
「古着には見えん、いいんじゃないか」
艶のあるよい黒の布で、裾にたっぷりと星や火花の金模様。フードの縁はマゼンタと緑の花の編み飾り。
「あのさ、年頃の娘が大祭に去年と同じ服ってけっこう屈辱なのよ?」
天空都市バルスドーラは着倒れの町だ。大祭前にはどこの生地屋もすっからかんになる。
「まあまあ……」
ウィリィはそんな姉弟子の心を組んで、同じく去年と同じ晴れ着をまとっていた。臙脂にお揃いの金模様、縁飾りは黒一色の花編みだ。
「ノスコンさんのお父さんがボク達の情報を把握して、警官とも連携してるんだろうから。大丈夫だよ……多分」
多分、と言ってしまうのは王宮データベースの情報が軽々に外に漏れることがないからだ。王宮書記官であるノスコンの父は相当な情報と作戦を持っているはずだが、それが何なのかは協力者であるオリィ達も知らない。
四魔法王へ捧げられる大祭は、たっぷり4日4晩かけて行われる。かつて大祭の花であった「御前試合」。本年復活することとなったそれの決勝戦は4日目のクライマックスの一つだ。1日から3日目に都市四カ所の魔法王神殿前広場で予選が行われ、最終日は中央区の王宮広場前で、各広場より勝者4人揃ったのをお披露目しての決勝戦。予選は勝利者に挑戦者が次々挑むのをたっぷり時間をかけて楽しむもので、実力者が連戦の疲労で凡退することもある。
なお「バルスドーラ最新最凶の規格外」ノスコン・ダークに連戦の経験は無い。なにしろ初手で神殿前広場に大穴を開けて即座に試合中止になったもの。
四十路のゼムが昔を懐かしむ。
「1日目の予選は子供らが遊んでるのが恒例だ。ガチの連中は連戦を嫌って3日目まで出てこないもんさ」
「3日目が勝負、か」
フードの奥からノスコンの鋭い視線がオリィを見下ろす。未明の決闘の汚名返上のパワーはこの日のために貯めてきた。オリィはフードの端をちょっと上げて黒い瞳を輝かせ
「あたしは予選出ないよ?」
あっさり答えた。
「は?」
ノスコンの気の抜けた声に
「だってオリィちゃん『実況と解説』するの」
にっこり笑うオリィ。
「は????」
面食らったノスコンからそれ以上の発音は出てこなかった。
<続>




