思い出の、さらに昔
月長石の円を十字の路が通る魔法都市の、路の先なる四魔法王神殿にて。
オリィは水の神殿前広場の、改修跡を目ざとく見つけ出して杖で叩く。
「他の神殿前広場にはこんなデザイン無いもん。何でかなって思ってたら、あんたが大穴開けて修理した跡とかさあ……」
「いや、まあ、そう……」
少年時代の記憶を掘り起こし、ノスコンは頷いて肯定した。
「で、どんな穴だった?!」
オリィの黒い瞳が星空の輝きを放つ。
「さあさあ思い出せ!遠慮せずどどーんとたのむ!興味あるよ、なにしろあたしが生まれる前の話だもん。いやあ、年寄りと仲良くしておくといいことあるね!」
「年寄り言うな!」
ツッコミを入れながら、ノスコンは思い出す。
「広場の地面……は1mはない、50cmくらい……だったかな。その下がぽっかり大穴で……」
16年も前の話である。24歳のノスコンが8歳だった頃。あの頃はシャトルもカーゴも今ほど多くなくて、移動用に小型のワイバーンを飼っていた年寄りもいた。大祭に連れてきてもらったノスコンは、空中をそれが飛んでいるのを見た。
『あれは奉納の竜だよ』
そう言ったのは珍しく休日を取った、仕事人間の父だった。
『昔はもっと多かったものだ。シャトルができる前はどこにも竜乗りがいたものさ。エサが半端ないから、家を湖上農園と2つ持ってて、毎日往復してるんだ。僕がお前くらいの頃、乗せてもらったことがあるよ』
それなりにバリバリ働いていた父が、急に歳をとってしまったふうに見えた。
『いつかノスコンも竜に乗せてやろう……父さんもこれからはいい親になる』
握られた手があたたかかった。
『寂しくとか、させないから』
バルスドーラに突如誕生した桁違いの魔力素質を持つ怪童。実家は商店で父は王宮勤め。母親がひとりで規格外の男児の面倒を見ていた。疲れ、隠れて泣いていた彼女は、その年の早春に家を出て行った。
「なるほど、ぽっかり大穴……そうじゃないかなとは思ってたんだ」
オリィは得意げにニヤッと笑った。
「バルスドーラは中央が低い皿のかたち。神殿はそのへりの坂の上。坂で上った分はナニカがあるわけで、飛空都市は軽いほうがいいんだから、そこにあるのは空洞。うんナットク!」
そして色の違うブロックをもう一度示した。
「色はもちろん、硬さも違う。ほら段差。ひどくすり減ってる。16年たくさん人が通ったんだもんな……同じ材質で作れなかったんだ。なぜ?」
ノスコンが16年前のことを思い出していた時。
オリィはさらに昔のことを考えていた。
「バルスドーラの建材は、月華石も飛鋼も魔術だけでは作れない。多分地面もそうでさらに製法も伝わってないんだ。王宮データベースだって魔術だけじゃ管理できない。天空都市バルスドーラは魔術師の都市なのに、魔術だけでバルスドーラは飛ばない。魔術師がいなくてもバルスドーラは飛べた。きっと、ものすごく昔から」
魔術師は世界の理、エレメントの祖なる四魔法王への信仰によって魔術を使う。
その信じる魔法の世界からさらに昔についてなど普通考えない。
「今年の大祭たのしみだわあ」
くるりと踵を返すオリィが見えるものがノスコンには見えなくて、彼はいくらかこの少女を尊敬した。
<続>




