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湖上農園、雨の出会い

地の女神アキシアの仇なる、アグマート住まう都市バルスドーラより遠く。



「お魚ああああああ!!!」

少女達は自由市場の入り口で歓声をあげていた。

「まだぴちぴちしてるのを串に刺してる!」

「焼いてるよ、いいにおい!!」

湖上農園の名物は湖でとれる魚だ。魔術師の都とはいえ地上をはなれた天空都市では天然生魚はなかなか手に入らない。

自由市場では、安価な場所代を払うだけで、天空都市の民と湖上農園の民が自由に売り買いできる。天空都市で作られる高度な魔術品は高価に売れる。湖上農園では魚をはじめ、各種野菜、果物、乳製品、卵や冷凍鶏が見事に並ぶ。


天空都市には、謎めいた条例がいくつもある。

ひとつ、建材は月華石によること。

ひとつ、屋根は王宮に向かい頭を下げるように建てること。

ひとつ、緑を作らぬこと。


この3つ目が非常に厄介だ。

人工鉱石よりなるバルスドーラにはそもそも土が無いが、水耕栽培すら許されない。なお日光にあてない白いモヤシとキノコはOKということになっている。

魔術師といえど人間、モヤシとキノコだけでは生きていけない。そこで欠かせないのが「農園」であり、農園で採れる豊富な食料なのだ。


オリィとウィリィは自由市場の場所代を払った後、入り口の真横で「天空都市よりお越しの皆様どうぞ!!」と言わんばかりの串焼き魚売り場にとびついて、湖上農園ではいつでも手に入る焼き魚を、ランチに余るくらい天空都市値段で買って大喜びだ。漁師さん、いい商売をしている。

「いいカーゴだね。場所はここを使っていいよ」

「ありがとうございます!」

手持ちのお金がすっかり少なくなったところで、2人はシートを広げて魔道具や薬を並べた。古着や古本もそこそこ売れる。そしてそれを売ったお金で食料を仕入れて、バルスドーラのお役所に買ってもらう。これがちょっとよい収入になる。

「ウィリィ、カーゴを充電モードにして。今から充電すれば今日中に帰れる。じーさんにぴちぴちのお魚食わせてやろう!」

「了解!」

カーゴの下方を反重力で支えていた正三角形の飛鋼が、真ん中から左右に分かれ持ち上げられる。カーゴはゆっくり着地して、飛鋼は2枚の直角三角形の形で太陽の光を浴びた。


バルスドーラ大祭前で、市場は活気に満ちている。

「ありあとやんした!」

愛嬌あるオリィはなかなか商売上手だ。

「……あ」

はじめにそう呟いたのは、オリィでもウィリィでもなかった。

「雨になりそうだ。これは通り雨じゃないぞ」

雲より高く、日々太陽光を白い屋根が反射している天空都市において、雨天は無い。

「……あめ?」

空がどんどん暗くなっていく。品物を片付けはじめる人もいる。

天空都市っ子の2人は、漠然とした不安を抱きながら、その様子を不吉なもののようにただ眺めていた。


ぽつ、ぽつ、と水滴。

絶え間なく降りる湿潤。

「……シャワーみたい……かな?」

さあさあと降る雨粒が顔に当たる心地よさを感じながら、2人はみごとにぐしょぬれになった服を気にしていない。

「おや天空都市の子だね!なんで傘をささないんだい?」

「かさ?」

通りがかりの奥さんが2人に1本の傘を差し出してひろげた。

なにしろバルスドーラには雨が降らないので、傘の存在も知らなかったときた。

ひろげられた白い天蓋。中央から伸びる棒を手に持って。

「……これ、バルスドーラの町をひっくり返したみたいだね」

「うん。この持ち手が王宮の塔だね」

妙な感心をして行き交う人もまばらになった湖上農園自由市場の真ん中で。

「あーーーーーーーーーーー!!!」

突然オリィは気がついた。

「こんなに暗かったら、充電夕方まで間に合わないじゃん!じーさんの魚腐っちゃう!」

「えっ、折角お土産買ったのに……」

ウィリィも悲しく眉を下げる。

「でも今日中に帰っても『今年は御前試合絶対復活させるぞチーム』がまだごちゃごちゃやってるだろうからなあ。仕方ない、じーさんの魚はあたしたちで美味しくいただこう。これは宿命なのぢゃ」

秒でひらきなおったオリィに

「御前試合が復活するだあ?!!」

突然、少年が叫んだ。

2人より2、3歳は年上の、湖上農園の少年と見受けられた。無駄に仁王立ちで、無遠慮に燃えるような目でこちらを見ている。黒髪にふちどられる顔はふしぎな白さで、育ちの良い人を思わせた。反して頬は真っ赤だ。黒と白と赤の、妙に気を引く一人の少年が、この後バルスドーラに大波乱を持ち込むことになるなんて、この時はオリィですら想像もしなかったのだ。


<続>

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