魔道具~それは浪漫
おもては月の石、裏は白銀の、天空行く都市バルスドーラの魔術師達。
「マジュツキュウシュウケッショウタイ……!!!」
新発明の物質を目にした長老マルク、見た目が一瞬20くらい若返った。多分中身は10代になっている。
「説明!説明をおくれゼム君!さあさあさあ!!」
「おうよ!」
鼻息荒い長老へ、石工ゼムは藍色のプリズムを掲げて語り始めた。
「さて、魔術は頭部に祈念と詠唱にて宣言され、首肩腕へパスを通り、手から杖に渡って発現する。ここまではいいな?そして杖に発現したエレメントのエネルギーは、宣言されたとおり使役される。魔術の勝負では魔術師の杖を離れて、相手へエネルギー弾になって飛ぶ。相手にぶつかれば爆発する。昔の御前試合はみんな傷だらけで盛り上がるのが普通だったが、普通でないヤツが出てきたせいで中止になった」
普通でない白い化物が「ぐぬぬ」みたいな顔をしてるのを見て(シンプルにこの人だけ出場停止にすればいいんじゃないかなあ)とウィリィは思ったけど口には出さないでおいた。
「『相手にぶつかれば爆発する』。そこにオレらが10年かかって作り上げたこいつが作用する!こいつは爆発に至ったエネルギーを吸収、無効化する性質がある」
「ヒャッホーーーーゥゥ!!!」
童心に返った爺様が奇声をあげた。
「魔道具の新素材キター!!!魔力を吸収したら色が変わるようにすれば勝敗は一目瞭然!怪我人も出ない!!」
ガッツポーズをくりかえす師匠を見ながら、オリィ・ザッテは冷静だった。
「爆発に至ったエネルギーを吸収するのはわかった。でもノスコンの全力の魔術に耐えられるか?」
未明の決闘で怪我人が出なかったのは、ノスコンの魔術が本人の掌の中で爆発したにもかかわらず、咄嗟に防御魔法を重ねがけというわけのわからない規格外のことをやりやがったせいだ。普通なら指の数本は逝ってるはずだ。
「わからん!」
ゼムは豪快に笑った。
「わからん。」
「だからノスコンに手伝って欲しいわけよ、耐久テストをな」
ゼムは己が修理した屋根をすっと指さすと
「実はこの屋根、長老会議堂ホール並の強度に仕上げてある」
「それってお高いやつですよね?」
家主のマルクをちらっと見たが、まだまだ興奮から脱けていなかった。
「バルスドーラ建築は屋根が一番肝心なんじゃから、そこに金をかけるのは魔術師の粋で許される。ちょっと退職金下ろしてくる」
「明日からモヤシ生活かな」
鶏手羽を配り終えたウィリィが台所を心配する。
「特価にしとくよ、結晶体の耐久テストができる場所が欲しかったのはオレだからな。というわけでオレと結晶体、ノスコンの魔力、腕利き魔道具職人のじーさん。これだけ揃ったら作るしか……ねえよな?」
「イエーーーーーイ!!!」
この雄叫びは長老マルクである。ノスコンはちょっと引いている。
「御前試合用魔力吸収結晶体入り魔道具作成!小僧ども!眠れると思うなよ!!!」
「ウエーーーーーーイ!!!」
この雄叫びは石工ゼムであって、ノスコンはずっと「なにこれなんで巻き込まれてるの?」という顔で固まっている。
「やめて。オリィちゃんは寝たい。美少女の美容のために8時間は寝たい」
オリィが主張したが、やる気しかない家主の耳には届かない。
「うーん、そうだなあ。オリィちゃんとウィリィちゃんはなあ……」
気を回してくれたのはゼムである。
「じゃあ、バイトでもしてみるかい?大祭前はなにかと物不足だ。運送の仕事はいくらでもある……オレのカーゴ、貸してやるよ!」
「カーゴ?!?!」
今度はオリィの瞳が幼児になった。
<続>