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第一章


科学が魔科学と呼ばれるようになった頃

この星では第一次魔科学戦争が起きていた。

かつては核弾頭による核ミサイルを多用した戦争を何度も繰り返し大地は枯れ空気は汚染され人が住めない時代もあったという。

地上から地底へ人は避難しそこに新たな国を作ったのだ。

そして、科学は進化していった。

地底から地上に人が戻るのに100年も掛からなかったという。


ある科学者が空気汚染の更なる改善を求め空気中の物質を採取していた際地上である粒子を発見した。

分子レベルの粒子でこれの研究を進めると特定の条件下で

火を発生させたり風や水を操れるようになったのだ。

これがのちにエレメンタル粒子と呼ばれるものでありこの粒子を用いて行使する能力を後に【魔法】と命名されることになる。


科学者は歓喜した。

新たな研究材料が見つかったのだ

世界中の科学者が研究に没頭した。

そして、いまこの時代。

人間は当然のように魔法を操るようになった。

専用のアタッチメント

EMA(エレメンタルマジックアタッチメント)

と呼ばれそれぞれの頭文字からを取りイーエムエーと略されている。この装備を用いれば魔法を行使できるようになる。

人の意志によってエレメンタル粒子をアタッチメントが吸収し魔法制御する事が可能になる。

多くの人は日常的に使用できる威力の制御されたEMAを使用するが

軍やそれに準ずる者はより高位のEMAを所持し、高威力広範囲そして上位魔法と認定される固有魔法を行使できるがEMAを用いても個人差は発生する。

火属性を例えにするならばEMAの性能に左右される部分もあるが火起こし程度の力しか発現出来ない人間もいれば致死性の高い攻撃魔法を使える人間もいる。

これは属性アジャストと呼ばれる個人における属性との相性が関係する。

簡単に言えば火属性への相性が高ければ水属性へのアジャストが難しくなる。EMAを用いたとしても属性アジャストにおける差ははっきりと出る。その為生まれ持った高い属性へのアジャストを優先するのが基本的な選択となっている。

それは軍隊への所属をする訓練生も他ではない。

俺、鳴上霊士なるかみれいじもそんな訓練生になる予定の1人だ。

先月、義務教育を終え防衛省の管轄にある

魔科学防衛隊へと進路を進め今日は防衛隊の入隊前説明会に来ていた。

「なんか、思ったよりあっさりしてるなぁ」

説明会会場を後にし防衛隊訓練施設の近くを歩きながらもっとガチガチの縦社会なのかと想像していたが案外先輩後輩の関係もよく想像より少し拍子抜けだった。

 配属される訓練生部隊は男子5名女子3名の8名で構成されるらしくその中で魔法能力の高い訓練生が部隊のリーダーとなると説明を受けた。男女の人数に差が出るのは入隊する女性の人数が男性より比較的少ない為だ。

 そして、俺は得意とする魔法は特にこれと言ってない。

何故なら全ての魔法を中途半端に使えるという困ったものだったのだ。

生まれて初めてEMAを装着した時、属性アジャスト適正検査を受けたが各属性にアジャストしてしまったのだ。

 検査員も驚きを隠せない様子ではあったがそのアジャスト値がどれも平均以下という結果に終わった。

検査員曰く

「全属性にアジャストされる方は滅多にいない」

との事だったがその値が平均以下という事で日常魔法の行使には不便はしないと説明を受けた。

 俺としては軍事訓練生の道に進もうと考えていたので問題はないかと確認を取ったが前線に出るには能力が足りない為、後方支援系の道なら訓練次第で可能性はあると思われるという事だ。

最前線の魔科学部隊に少し憧れがあったが能力的に難しいとなると納得せざるを得ない。

 攻撃魔法や支援魔法もどれも高威力の行使は期待できないと言われれば多少は気落ちもする。

「まぁ。無難にやるか…」

やる気がないわけではないがそれが俺の能力なのだ。

優秀な成績を収めるよりどうにか正式配備されるようにやるしかない。

 そんなことを考え視界に人がいる事に気づき自然を合わす

「お、霊士もきてたんだ?」

声をかけてきたのは幼い頃からの付き合いがある

火野雅樹ひのまさき

 こいつは高威力の火属性を行使できる今年の入隊者の中でも群を抜いて強力な力を持っている。

「あぁ…雅樹か。少し周りを見てみたくてな」

「霊士も?俺も見ておきたくてさ。これから世話になる場所だからね」

 そう言って雅樹は目の前にある防衛隊訓練施設を見上げる。

それにつられて俺も視線を上に向け思わず声に出してしまう。

「それにしたってでかいな…」

訓練施設は周囲に高い壁があり外からは施設内を見ることができない。

その上、上空から他国のスパイや軍隊などに偵察されることを想定して【ブラインド】という風属性の屈折魔法が使われている。

 これでこの国で行われる兵士への訓練内容が他国へ流出することを防いでいるのだ。

(説明会場は特別に設置された会場で俺たちはまだ実際の訓練施設は見せてもらえていない)

俺たちの国、即ち日本であるが国防、軍事力は世界第3位。一つ上にアジア連合(東アジア(日本を除く)や西アジアなど)が、そして世界第1位には共和国連合(主にアフリカを主体とする)が君臨している。

 星暦元年が制定される前の戦争ではアメリカ連邦が友好国である日本の静止も聞かず世界統一の名の下、各国に宣戦布告を行った。彼ら曰く「地球人上の人類を管理する事が平和への近道となる」というなんとも迷惑な話だった。

 なぜなら、古代時代に見られた国、地域による貧困の差というものは人が地底で地上汚染を改善した際に解消されたのだ。砂漠だった地域は今は緑の美しい観光名所になっていたりする。水質や空気も科学の発展に伴いかつての基準値を大幅に上回る綺麗な星に変わっていた。その為、かつて貧困に悩まされた国ほど科学は進歩し、より強大な力を手に入れていた。そんな中始まった戦争だが武力で終結させたのが共和国連合でありその足掛かりを作ったのがアジア連合である。

 日本は第3位という高い軍事力を保有していたが

国防に軍事力の75%を使用し、残りをアメリカ合衆国への助力へ回していた。

それだけ、この国は他国からの侵攻を受けていた、ということになる。

アメリカ連邦との平和条約を制定し友好国だったのも理由のひとつで日本を落とせばアメリカ連邦も落ちると踏んだ国や連合軍が日本に侵攻を開始したのだ。

また日本にある豊富なレアメタル、自然、産業。潤沢なエレメンタル粒子そして高レベルの魔法適正者を多く抱えていた為他国に比べて日本は豊かすぎた。

思考を巡らせた後、視線を落とすと雅樹からの視線を感じた。

「ん?どうした?」

「いや、聞いてはいたけどまさか本当に防衛隊に志願してるとは思わなくてさ」

「…どういう意味だよ?」

「まぁ、なんていうかさ…ほら」

雅樹が言い淀む。

あぁ。なるほど。

「俺の魔法能力のことか?」

「ん…まぁそうだね」

これは雅樹の優しさか…

強い魔法能力を持たない俺を心配してくれているのだ

「気にすることはないさ。これから伸びるかもしれない」

「あ、あぁ。そうだな!そうだよな!」

雅樹が少し笑顔を見せる

そうだ。それでいい。

お世辞にも高いとは言えない俺の魔法では厳しい訓練を越えていけるかわからない。

雅樹の懸念も理解できる

自分でも理解しているつもりだ。

 義務教育つまり中等学校を卒業後、俺は能力向上を目標とする訓練校に進学した。それでも俺の魔法アジャストの値が大きく上がることはなかったし特定の属性にアジャストする訳でもなかった。

あくまで人の成長と同時に上がる数値の範囲内でしかなかった。

「訓練生自体は意思があればなれるからな」

俺は肩をすくめて冗談まじりに返した。

「そうだな…とは言えこれからはまた一緒にやっていける。お互い頑張ろう」

雅樹が手を差し出しながら言う。

俺は雅樹の手をグッと掴んで

「あぁ。お互い頑張ろうぜ」

そう言って、これから始まる

厳しい訓練生としての決意を新たにするのだった。


都内某所

「彼を迎え入れるのは正しい選択といえるのか?」

「正しい?そんなもの言わなくてもわかるだろう」

「精霊力…あまりにイレギュラーすぎる」

「日野。口には気をつけろ。どこで漏れるかわからんぞ」

「む。すまない。だがな…」

「これについては国防省も理解している」

「理解?まだ殆どの解明されていない能力だ何を理解しているというんだ?」

「そんなもの決まっている」

「なに?」

「全ての魔法の根源。言い換えれば全ての魔法を行使できる唯一の能力これが最強の能力と言わずなんという?」

「…ハイリスクだ。神崎…扱いには気をつけてくれ」

「あぁ。理解している」

神崎と呼ばれた男は口元を緩めながら思考を巡らせる。

【精霊力】それは現代のEMAではその力の1%も引き出すことの出来ない能力。

この能力自体は研究の経過で存在は確認されていた。

魔法を行使する際にEMAが取り込むエレメンタル粒子の元となる粒子を生み出している存在。

それが【精霊】

現時点での科学力ではその精霊を具現化そしてコンタクトを取る術は確立されていないが世界中にある【星域】にはより強く濃いエレメンタル粒子が生み出されている。

各属性の【精霊】にはコードネームがつけられているが非公開となっている。

そもそも【星域】や【精霊】については機密事項情報であり、各国の軍事研究関係者の上層部しか知り得ていない情報である。

そして、この国に【精霊】を操る事が出来うる器である【星域支配者】が現れたのだ。

世界の情勢をたった1人で変えうる存在。

鳴上零士

神崎は肩を震わせる

あの少年が世界をどう変えていくのか

期待に夢が膨らむ

星暦元年とはよく言ったものだ。

元年は彼がこの世界に誕生した年であり

この世界ひいては宇宙にとって

一つの特異点が誕生したとも言える。


星暦18年4月


防衛隊訓練生入隊式当日


「凄い人数だな…」

防衛隊は人気のある職業であることは知っていたが

ざっと周りを見渡す限りでもゆうに300人は越えているように見える

「入隊自体は志願すれば入れるからなぁ…」

隣にいた雅樹も苦笑い気味に答える

「とは言えかなりふるい落とされるらしい」

「訓練期間中にか?」

「あぁ…定期的な訓練テストが実施されるんだと」

どの程度脱落するのかはその年の訓練生のレベルによるらしい

雅樹の話によれば昨年は500名ほどの訓練生が入隊したが最後まで残ったのは150名にも満たなかったという。

「それは厳しいな」

「だろ?訓練はかなり厳しいみたいだ」

雅樹とそんな話をしていると

前方が少しざわつき何事かと視線を送ると

「静粛に」

スピーカーから緊張感のある声が届いた

「訓練生の諸君まずは入隊おめでとう。今日は諸君がこの日本の未来を担う新たな人材の1人としてこの場にいる事は間違いない。だが、残念ながらその能力が足りないものは即座に除隊となることを忘れないで頂きたい」

なかなか初っ端から厳しいことをいう。

「続けて、本年度の志願兵は650名となるここ第一会場とは別の会場でも現在入隊式が行われている」

ここだけじゃなかったのか…

予想の倍は行っている。

「おっと。自己紹介がまだてあったね。私は防衛省防衛情報作戦部隊隊長である神崎俊徳中将だ。」 

神崎風真かんざきふうま

この国で生活していれば聞いたことのない国民はほとんどいないだろう。

前大戦で的確な指示、軍備配置を的中させこの国を守り抜いた指揮官の1人で階級は中将。

EMAをGPS情報と複合させながら部隊操作をするスペシャリストで得意魔法は風属性の支援系だ。

各属性の魔法は攻撃と支援の二系統に分けられる事が多く

神崎中将は後者の支援系を得意とする。

その魔法の詳細は明らかにさらていないが

風魔法は空気を操る特性から戦場において敵軍の位置を魔法によって特定する事が可能だと言うのを噂で聞いた事がある。

「本年度の訓練生にはかなりの優秀者が多く志願しているときいている今後の訓練によって更なる高みを目指してくれたまえ私からは以上だ」

神崎はマイクを置いてステージの袖へと下がっていく

彼のことをこうして直にみるのは初めてだ

佇まいや所作、言葉にひしひしと厳しさを感じるが俺はそれ以外の違和感も感じていた

「…風魔法…か?」

神崎中将が俺たちに向かって話し始めた時から妙な違和感があった。

まるでこちらを見られているような…

いや、見られているというより探られているの方が

感覚的には近い。

この会場において魔法の使用は禁じられているはずなのだが…

周囲を見渡してみたが軍関係者も違和感に気づいている様子もない。

魔法を行使したというには弱く微量なものだった。

「気のせいか…」

そよ風のようなものかと深く考えることは止め改めて前方に視線を戻す。

「これから所属する部隊の発表に移る!!名前を呼ばれたものは指定の場所へ向かうように!なお、聞き逃したものはこの場でリタイアしたものとみなす!今日、今より訓練は始まっている。緊張感を持って行動しろ!」

身体のゴツイいかにもな軍人が大声で指示を飛ばしていた。

危うく聞き逃す事になるところだったな。

どうやら、番号と名前で指定される場所が違うようだ。

300人近くいるこの会場で聞き逃さないようにするのはなかなか骨が折れる。

先に呼ばれた奴が羨ましいと心底思う。

「S01-α!日野雅樹!!」

ここで雅樹の名前が呼ばれる。

「はい!」

雅樹も立ち上がり返事をする。

と、ここで少し会場が騒つく。

「あいつが今年のトップ訓練生だよ」

「S部隊なんてすげぇよな」

S部隊とは

軍事訓練施設では魔法能力の高い順である程度所属する部隊が決定する。

魔法能力だけならばすぐにでも前線配備も可能な訓練生はS部隊に配属される。ただし雅樹の名前が呼ばれた時のαは科学部隊への適正となる。αは科学部隊への適正は1番下となる。つまり雅樹は魔法適正なら即戦力。科学適正なら要訓練といった所か。

ここでは殆どの訓練生が魔法適正を重視していて俺のように後方支援か科学部隊狙いの奴はそんなに多くはない。

多くはないが、600人以上も志願兵がいれば数百人は後者の奴もいる。

因みに01は部隊ナンバーだ。S部隊が1部隊だけという訳ではない。

雅樹が呼ばれた後も次々と名前が呼ばれていく。

それから1時間が経過した頃だろうか。

「F-05Λ!鳴上霊士!!」

ラムダ?資料にないランクだ。

周囲も騒つく。

とは言え、早く起立返事をしなければ即リタイア。

一度思考を止めて起立する。

「はい!」

そのまま前方に行くように促される。

騒つく周囲を尻目に進むとそこには女性が1人立っている。

「鳴上霊士さん。あなたの部隊はF-05部隊となります。また科学適正Λは今年より新設されたランク、クラスとなります。あなたを除いて他2名が所属予定です。訓練施設での基本行動部隊は05隊となり、科学訓練の際にのみ05隊とは別行動となりΛクラスでの訓練となります。これは他の部隊、クラスでも適応される事ですが各々の部隊やクラスでの機密事項は口にしないよう気をつけてください。いまこの場での質問は受け付けません。この地図を基にこのまま訓練施設F区画へ向かい他の訓練生と合流して下さい。以上」

淡々と説明され頭の整理が追いついていないが

とにかく、部隊とクラスの秘密は漏らすなということだろう。

俺は地図に目を落とす。

訓練施設には寮区画があり各部隊のランクで分けられているようだ。意外だったのは男女で区画が分かれていない所か。同室ということはないだろうが一階が俺の所属するF区画でS部隊が最上階のようだ。

地図の下に書いてある指示にはF区画のミーティングルームに集まるよう記されている。

歩いて5分程の距離だ。

俺はすぐに目的地へ歩きはじた。




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