エピローグ
さやかは二十九歳になっていた。
男と最後に会ってからもう一年が経っていた。
そして、あの日の夜を境に会ってはいなかった。
連絡先はまだ知っているが、さやかはおそらくもうニ度と男に連絡する事もないし、会う事もないだろなと思っていた。
二人はお互いの素性を深く話合い、お互いの傷を見せ合い、励まし、別れたのだ。
風の噂で、あの男が数ヶ月前に結婚したという話をさやかは耳にしていた。
その相手は誰なのかは知らなかった。
良い噂は悪い噂より、広まるのは遅いのだ。
その結婚話はあきなから聞いた噂話だった。
あきなも男とはずっと会っていなかったらしく、相手の女性を知らないみたいだった。
さやかは男の結婚を心の中で祝福した。
あきなは四ヶ月前に新しい恋人ができた。
その相手もさやかはどんな人なのかは深くは知らなかった。
彼女は親友の幸せをただ願っていた。
そう言えば、あきなと最後に会った時、あの男の元彼女の写真をさやかは見たのだ。
別れの理由もなく去った女性の写真を。
あきながこの人だと思うと、SNSに随分昔に投稿された一枚の写真を見せてきたのだ。
なぜ男の元カノらしき人物の写真を、あきなが見つけたのかはわからなかったのだが。
その写真は公園らしき場所で撮られた何かのグループの集合写真だった。
さやかはざっと目を通してみると、あの男の姿にすぐに気がついた。
男は列の一番後ろにいた。
数年前の写真のはずだが、男の見た目は去年会った時とそんなに変わっていない印象だった。
そして、男の隣にいた元彼女らしき人物の顔は、わざとなのか、木の枝葉に顔の上半分が隠れており、はっきりとは見えなかった。
だが、どこか私に似ている雰囲気があるとさやかは写真を見て思った。
あきなからしても、「さやかのシルエットによく似ている人だね」と言っていた。
さやかは恋人なしで独身のままだった。
だけど、変わった事は沢山あった。
まず部屋の引っ越しをした。
鏡を見る事より、何か楽しいものを見る方へと時間を使い、新しい何かをいくつかはじめた。
彼女はあれからも落ち込む事はあったが、深い海の底に沈む事はなかった。
カボチャの夢の話はもうほとんど忘れてしまっていた。
彼女は今、そこにはいないのだから。
失っていくもの以上に、楽しい何かを沢山得ているのだ。
そして、失わないものを持ち続け、増やし続けている。
彼女は今、何にも繋がれてはいないのだ。
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