5-14.【Side:ルナ】トランスポーター任務完了
イザベラへの押しかけ弟子のうち、暴走系の娘さんの視点です。
あ、確か、あの紋章だ。
馬車を捕まえるってのは、実はけっこう難しいんだよね。正面から止めようとすると、馬が暴れることもある。だから。
「おーい! 姉御ーっ!!」
「……ちゃんと見えてっから、大声出さんでくれよ……」
へえ、向こうからも見えてたのか。……って、何だか、えらいきれいな服を着た、キラキラした感じのお嬢さんが、馬車から降りてきた。
この前、あたしらを地下ろうにぶち込んだ腹に一物も二物も持ってそうな娘とか、小難しいことをかまして上に立とうとしてた姉御の姉とやらと違って、正真正銘のお嬢サマという雰囲気だ。
「……あんた、誰?」
「あんたも、わからないのか。……イザベラ……ゼーラだよ」
「へ?」
いやいや、ゼーラの姉御は、もっと眼光が鋭くて、そのくせ気配を全く感じさせなくて。こんなキラキラしたオーラなんか出してなかったぞ。
「はっ! これは、姉御の名をかたる偽物!?」
「んなわけあるかっ!」
ぐぎょっ、と、妙な音が頭に響く。そんで、頭がクラクラして、思わず膝をついてしまう。あれ? 痛みは感じないのに、なんでか、立てない。
「軽い脳震盪が起きる程度の打撃だから、心配すんな。それより、バカなこと言ってんじゃないよ、ったく。正真正銘の本物だよ。昨日言っただろう、あっちも貴族子女の端くれだ、とよ。そっち方面の付き合いだってあるし、こういう格好をすることだってあンのさ」
「は、はひ……」
「あんまし目立ちたくねえし、単刀直入に聞くぜ。首尾はどうよ?」
姉御から頼まれたのは、姉御から預かったものを、指示された場所に置いてくるというもの。午前中ってのは、注意力がみんな仕事に向いているから、実はあまり警戒されてない。何かを盗む時のように、探し物をする必要はないから、そんなに難しくはなかった。
「えっと、三カ所とも、問題なく、言われた場所に、ちゃんと」
「うん、それで大丈夫よ。後は付けられてないな?」
「問題ないっス、そもそも、見つかってないっスから。念のため、スラムにあるアジトで一休みしておきましたし」
「けっこう、けっこう。ありがとうね。あんた、十分に戦力になるわ」
「ほ、本当っスか!?」
「調子に乗らなければ、だがな。そっから、盗賊に限ったこっちゃねえが、最低限、文字だけは読めるようにしときな」
「えー」
あたしも、自分がバカだってことぐらいは知ってる。文字を読むなんてなあ、頭のいい奴がやることだ。サラはかなり頑張って身に付けたけど、勉強して、かなりヘバってたもんな。あんな時間があるなら、もっと稼ぐ方が先だと思うんだけど。
「そうすれば、現金以外に重要なものを見極められるわよ。裏帳簿とかあれば、いろいろ使えるもの。目利きが難しい美術品なんかより、よっぽど簡単よ」
確かに、壺だの武器だのってのは、カネにはなるんだけど、金額がわからねえし、そもそも本物かどうかさえ見分けられねえ。訓練が必要なのはわかるけど、そりゃ、文字を覚える方が楽ではあるか。
「もし、これからも、あっちの元でいろいろ学びたいってんなら、こいつは絶対だ。いや、これから先、最低限の読み書きができねえと、何をやるにも、生きていけねえ時代がくるぜ。どうだ?」
「う、うう……で、でも……姉御の言うことなら……わかった、やる、やります」
「いい返事だ。まあ、今は忙しいから、それどころじゃねえんだが、落ち着いたら、そういうのを学べる場所に行くこと。そうすりゃ、仕事の幅が、ずっと広くなるからよ」
ま、まあ……そりゃわかるんだけど……あたし、体を動かす方が得意なんだけど……。
「それに、文字が読めるようになりゃあ、あっちらの企みも、理解できるようになってくだろうしよ。その方が、面白くね?」
「そ、そだな!」
そうか、字が読めれば、難しいと思ってたことも、わかるようになンだ。そうすりゃ、姉御たちの話してることにも、ついていけるんだ。
よっし、やる気が出てきたぜ!
イザベラから受けた依頼を無事に達成すると共に、今後のキャリアアップ?への必須要件を提示される、信者その一。




