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5-1.うれしはずかし朝帰り

「んーっ……ふあーあーっ……」


 まだ眠気が残っているみたい。左腕を上に伸ばし、体を反らせながら、背伸び。ついでに、でっかいアクビも。


 体をほぐしたところで、人通りのほとんどない王都を、ゆるりゆるりと、体を少し引きずるように歩く。


 霧が薄くたちこめて、ひんやりした風が、頬をなでる。でも、寒くない。むしろ、ほこほことあったかい。


「ふふっ、なんか、包まれてて、えへっ」


 いつもは行き来の絶えないだろう一角だけど、時折、馬が引く車がゴルゴルと地面を響かせる音が伝わってくる程度で、話し声も靴音も聞こえない。クルッククー、というハトの声ばかりが耳に残る。


 やっと朝日が昇り始めるタイミングだし、こんなもんなんだろうな。時刻はよくわからないけど、少なくとも王都の人は、割と朝寝坊らしく、開店前の仕込みで忙しいなんてところもあまりないみたい。


 どうして、屋敷街からわざわざ王都の中心部まで出て、それからまた屋敷街のドゥルケン男爵家屋敷へ戻ろうとしたかっていうと、単にお腹が空いていたからだけなんだけど。ぐうぅ、と、胃袋が自己主張している。


「ちょっと、アテが外れたな……」


 わたしの知っている首都のオフィス街では、朝の八時台にもなると、定食屋や和食系チェーン店はかなりの賑わいを見せていた。自宅では朝食を食べず、出勤前に食事をしておきたいっていうサラリーマンは少なくないし、そういうニーズを満たすために、朝食対応の食堂は珍しくもなんともなかった。遠距離通勤をしていたら、そういうのもおかしくないから。


「この世界では、家の外で朝メシを食うことってないのかもね。いや、そもそも、時間的に早すぎるのか」


 人通り自体がほとんどないから、後者かも。もう明るいのに。そういえば、この世界での季節って、どうなってるんだろ。まだわかんないや。放り込まれて五日目だしね。


 それにしても、朝っぱらから、一人でぶらついている女って、浮いてるわ。他に、誰かいないかな。


 あ、居た。


 ……え、あれって。


「イザベラ?」「ユキエ?」


 わたしたちの声が仲良くハモって。


「イザベラ、あ、そのー……、今、仕事帰り?」


 何て言うか、我ながら、間の抜けた言葉掛けだと思う。昨日の別れ方といい、会った場所や時間といい、聞かずともわかることを、わざわざ。


「はい。どちらの仕事も、無事に終わりました。仕事明けの、ちょっと気だるげな雰囲気、わたくし、大好きなんですよ」


「そ、そう……」


 “どちらの仕事も”ですか。まともな返事ができないコメントを笑顔で出してくるの、アナタの悪い癖ですよ。確かに、気だるげな、それでいてどことなく満足そうな、達成感を示すような、そんな表情だけどさ。


 TPOはわきまえているようで、昨日別れたときのお嬢様然としたドレスじゃなくて、扇情的な、けっこうえげつない服になっている。つまり“二番目の仕事”をして、そのまま帰宅する途中ということだね。さすがに、一枚上に羽織ってはいるけど。そんなわけで、今の格好を見ると、どういう職業の女なのか、丸わかり。上品そうには見えない化粧を重ねているけど、これが結果的にカモフラージュになっているのか。


 そんな少女と、もう一人の娘が、仲良さげに話している。人通りなんかほとんどないからいいけど、昼間なら、注目を浴びまくるよね、これ。


「そういれば、ユキエは? こちらの方角……ビルジー侯爵家のお屋敷の方ですよね……あ」


「いや」


「そのジャケット……男物です、よね……ふむ」


「だからね」


「ああいえ、わたくしは何も……いえ、姉上はまだそういう経験がないはずなので、体はきちんといたわっていただければ。うふふ」


「そうじゃなくて」


 確かに、トビアスの家で一晩過ごしてからの朝帰りだけど、そうじゃなくてね。ちょっとリアルなイマジンまぶたに……あ、あ、あう。


「ユキエ様、顔真っ赤ですよ。……え? あら?」


 そして、わたしの意識は、そこで途切れた。

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